happy days | ナノ


□happy days 53
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「忘れない!!」



口の中で行き場を無くしていた言葉を吐き出すのは、何でこんなにも気持ちが悪いのだろう。それと一緒に涙が、耐え性も無く溢れて来るのは、何故なのだろう。
歪んだ世界のせいで見えはしなかったけれど、彼女の顔が酷く動揺した気がした。
その頬を掴んで引き寄せて、怯えた褐色をしっかりと見据えて、声を響かせる。

「俺は、お前を絶対忘れない!!」



思いの外しっかりとした声音を保てられた事に安堵して。
いつの間にか消えていた迷いに、静かにさよならと呟いて。



「何処に居ようが、何をしようが、



俺はお前を、






絶対見つけ出してやる!!」






伝えきれなかった小さな願い。
叶えきれなかった小さな叫び。
嘗て悲しさに押し流されて忘れてしまった想いが、涙と一緒に溢れて来る。
あの日止まってしまった想いは、けれど命の灯火を消し去る事無く、自分の記憶の奥の奥に、眠りながら彼女を求めていた。

残念な事にそれは自分が自ら望んでしまった事なのは否定出来る物では、ない。
忘れてしまった事を恐れて、忘れられてしまった事を恐れて、心の何処かで自分は、彼女に再び出逢う事を恐れていた。
一度味わった失う事への、忘れる事への痛みを感じたく無くて、何処かで、心の奥の奥で、想いを伝える事を拒んでいた。

けれど。
彼女は、居た。
懸命に闇と戦った時間をちゃんと自分の中に留めて、笑ってそこに居てくれた。

シリウスくんと、辿々しく名前を呼んだ時。
どうしようもない不運に悲しんだ時。
夕暮れの美しさに顔を綻ばせた時。
自分の顔で自分に笑いかけてくれた時。
怖いと弱音を初めて口にしてくれた時。
ひた隠しにしていた涙を溢れさせた時。
全てをぶち撒けて、理解してもらえない事をただひたすらに悔やんだ時。

そこに、彼女は居た。

ふにゃりと気の抜けた顔で笑い、
困った様に眉根を寄せて、
三日月型に褐色を歪ませる姿に。



「(自分は、)」

「(ただ、)」









恋を、していた。











「…返、せ…??
何を…返せって言うの??」

何を。
何を言うのだ。
こいつは何を。
何を言っている。

「私は…」



そうだ。
私は…
貴方はわたし。
あたしはお前。
あいつはあたし。
わたしはあいつ。
わたしは、
あたしは、
あいつは…!!

じゃあ



「…じゃあ、









お前は、誰だよ。」

























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bkm





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