happy days | ナノ


□happy days 51
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「…ふぅ」



セブルスは本のページを捲っていた手を休め、静かに息をついた。恐ろしく静まり返ったスリザリンの談話室は然し、集中して読みたかった本を次々と読破するのには持って来いの場所だった。

クリスマス休暇には学校に残る生徒はほとんどいないというのは本当だったらしい。
自分の学年は殆ど居らず、それは愚か、あの五月蠅い上級生4人組(一人は無口だがセブルスは苦手だ、怖いから。)も小憎たらしいあのレギュラスも里帰りしているのだ。

誰も居ない談話室ではどれだけ本でテーブルを占拠しようが、はたまたどんな格好でうろつこうが誰も注意する者は居ない(別にそんなとんでもない格好…全裸とか…ではない事を今の内に訂正しておく。寝間着のままとかそういう意味である)。

家に帰るより一等良い事だ。セブルスは冷めてしまった紅茶を淹れ直そうと腰を上げた。



──ガチャ



「…」
「…よ、よぉ…」

寒さに身を震わせて入って来たそいつは、セブルスが居た事に驚いて後、ややぎこちない笑みを浮かべて挨拶して来た。
どうせ他寮の女子とそこら辺で乱痴気騒ぎでもしていたのだろう、セブルスは何とは無しにそう決め込んで、ザリスから目を反らして熱いお湯の入ったポットへと視線を戻した。

「…」
「…な、なぁ、」
「…何だ。」
「お、俺も…茶貰って良いかな??」

眉間に皺を寄せたまま振り向いたセブルスに躊躇いながらもそう呟き、その後に『そんな顔しなくても』と苦笑したザリスだったが、セブルスからしてみればこの顔は最早生まれつきなのだ。
んな事知った事かと、逆に皺が一本増えた気がするセブルスは然し渋々頷いてやった。
ザリスはそれに少し安心したのか、ついさっきまでセブルスが座っていた所に座り、机に広げてある大量の本を見て目を丸くした。
すげぇな、これ全部呼んだのか??という声が背中へと降りかかって来る。
どうしてこうもこいつは人の癪に障る事ばかりやってくるのか、いつしか歯をギリギリ食い縛りながらセブルスは『まだ半分しか読んでいない』とだけ答えてやった。

お湯を淹れた後適当に茶葉を放り込み、それとかなり嫌だがもう一つティーカップを指に引っ掛け、セブルスはテーブルへと戻ってくる。
前座っていた所はザリスが居るので、仕方なくその向かい側へと腰を下ろした。

適当に蒸らし、セブルスはそれぞれのカップに注ぎ始める。あまりいい色とは言えないが、元々お茶を飲む事に優雅さなど微塵も求めてなど居ないのだ、セブルスはこの味にもう慣れてしまったが、コイツはどうなのだろうかとザリスをちらりと見やる。
些か苦々しい顔をして飲み、彼は無理矢理絞り出したような声で『かなり、その、渋い味だな』と咳き込んで言った。
何となくその顔を見て気が晴れ、セブルスはフンと些か得意げに鼻を鳴らした。

元々仲が良いとは別に言えない様な間柄なのだ。それに加えて、彼はセブルスのやってはいけない条項第一条に新学期早々違反してみせている。
けれど別にそれをぶり返したくもないし、もし返して逆ギレされたらそれこそ面倒な事になるのだ、それだけは御免被りたい。
平穏無事が何よりも大事な事だというのを身に染みて分かっているセブルスにしてみれば、彼が一刻も早く自分の部屋に引っ込んでくれることが一番の良策だった。

しかし、彼は其処に居座り続けた。
談話室が居心地が良いのは分かるが、それならせめて自分の視界から外れて欲しい。何より物凄く本が読みづらいのだ。
とうとう我慢出来ずにセブルスは素晴らしい『魔法薬学』の論文から彼のシルバーに近い灰色の髪に目を移した。

「…用が無いのなら帰って欲しいのだが。
僕が本を読むのがそんなに珍しいか??」
「あ、悪ィ、そういう訳じゃないけど…」
「…ルイなら、」
「はッ!!?(ビクッ)」
「…今年は残るそうだ。」

嗚呼、矢張りそうだったか。
腹立たしいやら呆れるやらで、セブルスは自然とため息が漏れるのを抑える気にもならなかった。
まだ気になって居るのかと聞くのも億劫で黙って居ると、全く有難い事にザリスが勝手に喋りだしてくれた。

「…だってよ、もう俺アイツに近づける様な御身分じゃないじゃん??
俺知り合いにグリフィンドールのヤツが居るんだけど(ていうかルイのルームメイトだけど)、アイツに頼りたくないっつか…さ。
だからお前なら聞き易い、かな、とか…
ってごめんごめんごめんってんな顔すんなってお前怖いんだって!!!

…まだアイツの事、諦めきれないんだよ。
あんだけしといて馬鹿みたいだって自分でも思うけど、それでもまだ好きなんだよ。
アイツ見るだけで、もしかしてまた笑ってくれるかもって期待して…馬鹿みたいだけど。
見られなくなった事が悲しいっつか、こんな事になるなら優しくしとけば良かったとか…今更になって、思ったり、とか…」

…泣いて居るのか??
語尾を震わせる彼に、セブルスは思わず気を取られた。
しかしその途端まるで決壊したダムの様な勢いで号泣し始めたザリスに、セブルスは思わず引いた。



…ッだァァァッてよォォォ!!!
悲しくね!?俺がこんなにも近いのに何で他の男ん所に泣きに行くんだよって感じじゃね!?俺的にアイツ=心のオアシスだったのによ!!?
そりゃ状況的に頼る様な関係じゃねぇってのも分かるけど!!分かるけどさァァァ!!!
ちょっと位頼ってくれたって良いじゃんかよォォォ!!俺の恋心はどうすればいいのって感じじゃねェェェェェ!!!?」
「…す、少し落ち着け…」
「落ち着いてたらこんな状況になってねーっつのよ畜生俺のアンポンタンンンンン!!!」

うぉぉぉぉんとむせび泣くザリスに、セブルスは色んな意味でおろおろするだけだ。こいつこんなに面倒な奴だったのか!!?
初登場辺りの悪ッ振りは何処へやったのだろうかと、彼の涙の被害に遭いそうになった本を救出しながら、セブルスは訳の分からない苛立ちに襲われた。

突然ザリスはピタリと泣き止む。今度は一体何だと思わずびくりと身体を震わせ身構えたが、ザリスは自分の涙でぐしょぐしょに濡れたテーブルに突っ伏したまま、うんともすんとも動こうともしない。

「…??…おい…」

セブルスは恐る恐る彼の顔を覗き込んだ。
が、然し、彼から漂った匂いに思わずセブルスはうっと唸って鼻を摘んだ。
…ものすごい、酒の匂いだ。良くみれば寒さでそうなったとばかり思って居た頬も、まるで林檎の様に赤い。
プラス、嗚咽に混じる微かなヒックというしゃくり上げ。

「…酔ってた、のか??」

何という事だろう、然し考えてみると、彼が躊躇いながらもセブルスに話しかけてくれた辺りからおかしいのだ。
今まででも彼が自分の所にくるチャンスは幾らでもあった。
なのに彼は一度も話しかけては来なかったのだ、自分が一人だったという事もあったのだろう。
そして極め付けに、アルコールだ。
彼の中の躊躇いを打ち消すには何とも条件が揃い過ぎて居たという事か。



「…本人に言ってから泣け、阿呆…」



唸り声を上げたザリスの頭を軽く小突き、セブルスはよいせ、と彼を背負った。寝てると言っても、今の談話室は自分だけのものであって欲しいのだ。
幸い彼のポケットにも鍵は入って居た。
全く、世話の焼ける。
彼がルイを諦めない限り、このセブルスの曖昧な感情の溜息は尽きないのだろう。

本当に、全くもって迷惑なものだ。
本日何度目か分からない嘆息と共に、セブルスは男子寮の方へと歩き始めた。



TO BE COUNTINUE...



後書き…

ひっさびさに御久し振りですYEAHHHH!!!
とか言いつつページ少ないですねすみません_| ̄|○ il||li
とりあえず受験も決着つきそうなので連載再始動です!!また馬鹿みたいな話を書き散らして行きますので、宜しくお願いします!!

ちなみに今回はザリス出張らせてみました。
アンケにもザリス好きって人がいたので、とりあえずこれは捧げ物に近いですね(汗)

つづきます!!







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bkm





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