happy days | ナノ


□happy days 51
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扉の前でリリー達を待ち、全員揃ってから皆は初めて大広間に入った。
天井は、其処にある巨大なクリスマス・ツリーには不釣合いなコバルト色の空が広がっていた。
フリットウィック先生が妖精呪文を使って当たり一面に散らせた光の鱗粉が、時折霧の様に鼻の先を掠めるのが擽ったい。

やはり他の寮もほとんどの生徒が里帰りをしているのだろう、いつものように整然と四列に並べられた長机が、今日は大きな円を描いて置いてある。
そこには数名の他寮の生徒───スリザリンではセブルスが居たのにルイは気づいた───と、ダンブルドアを始めお馴染みの教師群が、まだ来ていない生徒達を待ちわびていた。

「おはよう、そしてメリークリスマス、グリフィンドール生諸君。さぁ早く席に着きなさい。
君達を待っていた者達はきっとお腹が空いているじゃろうて。」

ダンブルドアの優雅な薦めに、ジェームズを先頭にして6人はいそいそと席に着いた。
セブルスがこちらを見ていた事に気付いたルイは小さく笑って手を振った。
彼もまた、少し照れくさそうに手を小さく挙げたが、ルイの隣を見事獲得したジェームズ(反対側はリリー)がふざけて同じ様に手を振って来たのに気分を害したのか、眉間に皺を寄せてそっぽを向いてしまった。
『フラレちゃったよ』とケタケタ笑うジェームズに苦笑を見せながら、ルイの意識はシリウスへと移る。
ジェームズの二つ隣の席、つまりリーマスを挟んだ左隣の席で至極退屈そうにテーブルに肘をついている彼は、自分の視線に気付いていない様だ。
ルイは誰にも気付かれない様にほっと安堵の溜息をつく。存外にも普通通りに接してくれた事に安心してもいたし、逆に何故か少し残念な様でもあった。

気にしてないなら別にいいのだけれど。居心地が悪い様な、もぞもぞと身じろぎしたい気持ちが治まらない。
あの日、二人で『隻眼の魔女』以外の抜け道を通ってホグワーツに帰ってから、何となくシリウスに声を掛け辛くなったとルイは思っていた。
寛容な彼の事だ、恐らく自分が打ち明けた事など何とも思わずに答えてくれるとは自分でも分かってはいたのだが、問題なのは彼ではなく、自分の様な気がしてならない。

あの温かい熱は、憶えている。
優しく余韻を残された額でも、決して離れない様握られた手でも、自分のエゴだらけの咽び泣きを抱きしめられた全身でも、ちゃんと…
ルイはそこで思考をとめ、赤くなる頬を隠す為に俯いた。
嗚呼もう、何で思い出すのだろう。
ふにふにと頬を何度も弱く抓りながら、ルイは軽く後悔する。
分かっている。恐らくこれが、彼に声を掛けづらい要因の一つだと。

「(気にしたり…しないの、かな。)」

彼の他人に対してのスキンシップなど、今更問うて何の得になるのだと一人、そう思い返してみる。大体抱きつくとかならジェームズにだってやられている事だし(本人は凄くうざがって居るが)、体と体のスキンシップ(生々しいな)なら、自分よりもリリーの方が多いと思っている(良くプロレス技掛けられてるし)。

そんな彼にとって、あれはもしかしたら仲間と認めたものへの、ある意味で友情の表明なのかもしれない。
ルイは何度も考えた、真実かもしれない仮説を必死に信じ込む。
これ以上の事なんて自分は望みたくないし、寧ろ望んではいけない事ではないかとも思っているからだ。

今のままで良い。
悪い仮設など早く忘れたいのだ。ルイはそう考えながら、ゴブレットを掲げてみんなと笑いあう。
少し無理し過ぎかと内心呟きつつ、ルイはシリウスをもう一度見た。
しかし、見られているなんて思いもしなかったルイは、灰色の瞳が此方に視線を向けていた事に驚いた。
彼女が気付いた事に満足したのか、シリウスは普段では想像できないほど柔らかい笑顔で笑ってみせる。
その笑みにルイの胸はまた、何ともいえないもそもそした気持ちがじんわり広がるのを感じる。



「(…期待なんて)」



桜色の感情に、
ぽつりと黒い染みが広がった。
急に世界が冷たくなった心持ちに、
けれど安堵する自分にウンザリする。

ぱち、とルイは瞬きをする。
次の瞬間、ルイは笑っていた。
いつものように、ふにゃりと顔を緩ませただけの苦笑で。



「(しないって決めたのに。)」






(だから、笑わないでよ)







期待しちゃう、じゃない。










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bkm





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