「おはよう。」
「…お、ぅ。」
いきなりの事に心臓が飛び上がるのを何とか抑える。ルイはシリウスのそんな葛藤も知らずに不思議そうに首を傾げた。
赤いセーターに深い緑色のスカート。
クリスマスにぴったりの装いではないかと思う。
が、いきなり目の前に来てもらうとなると、何だか申し訳ないというか、心の準備が出来ていないというか…ともかく、心臓に悪すぎるのである。
覗き込む様な褐色から逃れる策としての照れ隠しをするために、シリウスは折角整えた髪をガシガシとかきむしった。
黒いぼやけた線の向こうに見えた顔は、どうやらいつも通りの様だった。
「シリウス、ジェームズは??」
「…アイツなら部屋でまだごそごそやってるぜ。
お前こそ、リリーはどうしたよ。」
「寝癖が治らないからってまだ部屋に居るわ。
先に行っててって言われたの。」
「ふーん…じゃあ、一緒に行くか??
待ってたらそれこそ全員朝飯食いっぱぐれるぞ。」
「え…あ、うん、行きt」
「じゃあ僕も一緒に行くよ☆」…間。
「っぎゃああああぁぁぁッ!!!
リッ、リリッ、リーマス!!!お前いつの間に…」
「メリー・クリスマス、ルイ。
今日もとても良い天気だね。」
「メ、メリー・クリスマス…」
「え、俺無視!?
ねぇちょっと俺無視!?」
「もう…イヴの日位静かにできないのかい、シリウス??ルイが吃驚してるよ。」
「(お 前 に な 。)」朝でもフル始動のリーマスのにっこり黒笑いに、心の中でしか突っ込めない自分が可哀想だとシリウスは思った。
「あ、それもしかして新しい服??」
「うん、今日おろしたの。」
「へぇ…良い色だね、似合ってるよ。」
「本当??」
お気に入りだったのだろうか、シリウスに向けたそれとは全く違う柔和な笑みでそう言ったリーマスに、ルイはえへへと照れくさそうに笑った。
こういう小技を、特に人を誉めると言った芸当をシリウスは持ち合わせてはいない。
だからいつも一本取られた気がするのだと、シリウスは一人歯噛みした。
「それより、早く大広間に行こうよ。
僕昨日の夜からお腹ペコペコなんだ。」
「ふふ…そうね、早く行きましょう。」
「ほら、シリウス、行くよ。」
完全に指導権を握られ、リーマスとルイは楽しそうにこれからの過ごし方を語り合いながら遠くなって行く。
成る程、だから今日は朝一番からルイと会えるなどという奇跡が起こったのか。
まるで風の様にかっ浚われてしまった事は見つけるが、しかしまだ負けたわけではないとシリウスはグッと涙を呑んだ。
何たって今日はクリスマス・イヴだ。
神が作り賜うた聖夜なのだ。
まだ────俺に勝機はある!!
シリウスはカッと目を見開き、床にうなだれる様についていた膝を上げると、二人のほんわかラブなオーラをぶち壊す為、心の中で『アァァァメン!!』と叫びながら彼等の後を追った。
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