happy days | ナノ


□happy days 50-B
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「なぁ、ルイ。
忘れる事は何か、知ってるか??」



ルイは涙で濡れた視界を上げた。
隣で瞬く星を払い除ける様にしてシリウスは振り返り、ルイの褐色を覗き込む。
どこまでもどこまでも真っ直ぐで、どこまでも気高くて、うっすらと笑みを浮かべて居るその目の中に、今にも叫びだしそうな悲壮な表情をしたルイがいた。

「…忘れる…事…??」

彼は薄く、微笑する。

「…忘れるって、
何て書くか分かるか??」

強く握られたはずの手がするりと抜けて、シリウスは道端に落ちていた手頃な枝を拾い、白いキャンバスの様な雪面に何やらガリガリと書いた。
月明かりに照らされ、眩しかった。
アルファベットの間が、ほんの少し空いていた。
それは瞬く間に違う意味に変わっていた。






  forget
「…忘れる事は、


   for get
何かを得る為なんだ。」






得る為に、人は忘れていく。
生きる為に、失っていく。
それは時に悲しみも苦しみも含んだまま。
自分達が明日に往ける様に。
自分達が振り返ってしまわぬ様に。



「俺は、忘れたって、構わない。
俺は、何かを失ってしまったって良い。

俺達は、歩いて行かなきゃならないんだ。
俺達は、地面にしっかり足をつけて、
この世界で生きなきゃいけないんだ。

どんなに残酷な現実だって、
どんなに悲しい過去だって、
俺達は受け止めなきゃいけないんだ。」



人は愚かにも、
全てを忘れ全てを棄て、全てを失ってきた。
けれどその代わりに人は、
何かを見付け何かを得、生き続けてきた。
何かを忘れないで居る事は、
それに対して確かに優しいのかもしれない。
けれどその代わり、人はそれが持つ全てを背中に背負わなければならない。







「苦しんで、悲しんで、
それで得られる幸せなら、



俺は構わない。



俺はそれを抱えて、生きて行きたい。
消えたものの痛みも、何もかも全部、



この体に全部背負って、生きて行きたい。」









幸せになる事は、何かを忘れる事。
忘れる事は、何かを得る事。
それに気付いたのならば。
もう迷いなど要らなかった。

忘れる事は確かに悲しい事で。
けれどそれに振り返っては居られない。
この1分1秒一刹那の間にも、
世界は変わり、胎動し。

新しい世界に、生まれ変わるのだから。






「…いつか、俺は見つけたい。
『幸せ』になれる、たった一つの方法を。」






目を閉じてみれば、感じられる世界の息吹。
愛しくて仕方ない、この世界の生命の標。

それを忘れずに生きて行こう。
この胸の片隅に置いて行こう。

生きるのに疲れたその時にだけ、
ほんのりと思い出せればいいから。












「難しい思考も要らない。






正当な理由だって要らない。






少しだけ、想ってやればいいんだ。









この世界が何よりも好きな事。






この世界を大切だと想ってる事。






この世界が大切に想ってくれる事を。













幸せだとも不幸だとも考えるのは、






神様でもこの世界の誰でもない。












ルイ。






お前なんだって事を、忘れるな。」











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bkm





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