happy days | ナノ


□happy days 50-B
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「………」



何を言えば良いか分からなかった。
笑えば良いかも、謝れば良いかも。
ただひたすら、自分の体は酸素を要求するだけで、そこから動こうとしなかった。
血がいつもより早いリズムを奏でながら、足の震えを少しずつ溶かして行った。
ただ聞こえるのは、自分と彼の息遣い。
灰色と褐色が互いを混ぜ合わせる音。

彼が口を開く、それと共に苦笑する。
寒さで赤く染まった顔は、けれど何故だか酷く嬉しそうに見えた気がした。

「おせーよ、馬鹿。」
「……ごめん…」
「…ホラ。」
「……」

差し出される赤らんだ手を、取っていいものかと暫くの間逡巡していたルイだったが、やがてそれにおずおずと手を重ねた。
手を引かれて歩く呼吸は、嘘の様に静かに凍てついた白を吐いた。
ゆっくりと、二人は坂を降り始めた。

ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく。

彼を中心にして、周りの闇が開けて行く。
星が彼の脇を流れ、雲が彼の頭上を泳ぐ。

ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく。



「――…ほんとはね、」



全てを話すと、約束した。
自由になる代わりに交した約束を。
乾いた唇を拭って、その背中に声をかける。









「どうでも、良かったの。」









ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく。

その音に共鳴する様に、
包帯の下の傷がじくじくと痛んだ。
彼は後ろを振り返らない。
ルイは結露する言葉を吐き続けた。







「誰かが呼んでも。

泣きながら呼んでも。



一人になっても、

悲しい思いをしても、






私は、どうでも良かったの。」






ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく。









こわかった。




よわかった。




悲しかった。




「もう」



























「かいほう、されたかった。」









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