「………」
何を言えば良いか分からなかった。
笑えば良いかも、謝れば良いかも。
ただひたすら、自分の体は酸素を要求するだけで、そこから動こうとしなかった。
血がいつもより早いリズムを奏でながら、足の震えを少しずつ溶かして行った。
ただ聞こえるのは、自分と彼の息遣い。
灰色と褐色が互いを混ぜ合わせる音。
彼が口を開く、それと共に苦笑する。
寒さで赤く染まった顔は、けれど何故だか酷く嬉しそうに見えた気がした。
「おせーよ、馬鹿。」
「……ごめん…」
「…ホラ。」
「……」
差し出される赤らんだ手を、取っていいものかと暫くの間逡巡していたルイだったが、やがてそれにおずおずと手を重ねた。
手を引かれて歩く呼吸は、嘘の様に静かに凍てついた白を吐いた。
ゆっくりと、二人は坂を降り始めた。
ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく。
彼を中心にして、周りの闇が開けて行く。
星が彼の脇を流れ、雲が彼の頭上を泳ぐ。
ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく。
「――…ほんとはね、」
全てを話すと、約束した。
自由になる代わりに交した約束を。
乾いた唇を拭って、その背中に声をかける。
「どうでも、良かったの。」
ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく。
その音に共鳴する様に、
包帯の下の傷がじくじくと痛んだ。
彼は後ろを振り返らない。
ルイは結露する言葉を吐き続けた。
「誰かが呼んでも。
泣きながら呼んでも。
一人になっても、
悲しい思いをしても、
私は、どうでも良かったの。」
ざく、ざく、ざく。
ざく、ざく、ざく。
こわかった。
よわかった。
悲しかった。
「もう」
「かいほう、されたかった。」
[次へ#]
[*前へ]
[
戻る]
[
TOPへ]