happy days | ナノ


□happy days 41
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「本、に…ホワティエ家に関連する記事の名前が…」
「調べたんだ!!流石はリーマス!!」

ケラケラと笑う彼女は称賛する様に声を上げたが、言葉と表情のちぐはぐさに吐気がした。言葉の端々にまとわりつくクスクス笑いが、どうにも受け入れ難かった。

「じゃあ、ふたーつ。
どうして私がシリウスと幼馴染みだったって知ってたの??
まさかそんな事まで本に載ってるワケないよね??」
「…それは…その…」
「でっち上げ、とか??」
「ッ違う!!」

思わず怒った様に反論したのが幸を奏したのか、ルイは笑うのをやめてくれた。それだけで、リーマスは肩の荷が降りた様に感じた。



「じゃあ、何。」



それは、
疑問でもなかった。
躊躇いでもなかった。
自分の返答への催促だ。
そう、自分でも自覚していたのに。

体を物凄いスピードで這い登って来たのは、
心の奥底まで見透かされる様な戦慄だった。

「……ッあれは…」

話しては、いけない。
警鐘が頭の中でそう鳴り響く。
そもそも言っても信じて貰えるかどうかさえ不安だ。証拠なんてどこにもないのだから。
リーマスは答えるべきかどうか迷った。

「…答えられない??」
「…ッ答えても、信じないだろう??」
「まぁ、それもそうね。」

首をすくめてルイは言った。
掌の中に滲む汗が、いい加減に気持ち悪かった。

「…じゃあ、



みーっつ。」



そういうが早いか、ルイはグイッとリーマスのネクタイを引っ張った。
息苦しさにリーマスは顔を歪めたが、目の前にあるルイの、目玉が飛び出るのではないかという位に見開かれた褐色から、目を反らすワケにはいかなかった。
ルイはまた、ニタリと笑った。
ネクタイを捕えていた手をゆっくりと移動させ、血の気が引いた彼の顔を優しく包み込む。
それだけで、リーマスの心臓は早鐘を打った。

違う。
これは、ときめきなんかじゃない。
彼女への溢れる様な愛しさじゃない。
自分を今、捉えてはなさないもの。
それは、






恐怖、だ。









ルイはリーマスの耳元でそっと囁いた。
リーマスは自分の予測が的中したのを確信した。
彼女はゆっくりと、リーマスから離れる。
氷の様に冷たい手が頬から居なくなった瞬間、リーマスはがくんと膝が抜け、そのまま石畳に座り込んでしまった。

「……ね??」

カクン、と首を傾げてルイは繰り返す。
リーマスは呆然としたまま答えなかった。
ルイは彼が答えないのを知っていた様に、今度は返答を求めなかった。
彼女は、最後ににっこりと微笑んだ。

くるりと振り返り、歩き出す。
カツ、カツ、カツと、まるでいつ振り返ろうかと思案している様な速度で。
リーマスは、自分の手がかじかんでいる事に気付いた。と同時に、嫌な冷や汗がドッと吹き出て来た。
たった数分の出来事の様だったのに、いつの間に時間は、自分の目の前を走り去ってしまったのだろうか。

「………ッ」

シリウスはこの妙に緊迫した空気を壊そうと、声を上げるために口を開いた。
が、不意に、どこからか突き刺さって来る視線に気が付いた。






「何、してるの??」







「…!!」

一気に全身の毛が逆立った。
反射的に振り返ったが、その時既に背後に居た何かが、目元を擽る様に霞めた。
それは本当に一瞬の事で、最初は気付かなかった。目に近すぎて、ピントが合わなかったからかもしれない。
それは、とても見覚えのあるものだった。
それは自分を身を守り、あるいは他人に何かを及ぼすもの。
何も言わず、自分の悪戯を手助けしてくれるもの。
自分の夢を、叶えてくれるはずのもの。

なのに。
今のそれは、ただの道具でしかなかった。
確実に、正確に。
それは自分の命を立ちどころにして奪えるものだった。

「……ッッ!!」

いや、自分は忘れていただけかもしれない。
心の表面下でそれを納得していただけで、実際その問題を深く考えてみた事なんて一度もなかったから。
目の前に突き付けられているそれと、自分のポケットに眠っているそれは、全く同じものだという事に。







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