「…………は??」
リーマスは間抜けな声を出した。
その言葉を合図にした様に、ルイの口からはクスクスという忍び笑いが聞こえてきた。
「……ルイ…??」
「…クスクス…あは…あはははッ!!
リーマスも大概に嘘つくの上手ねぇ!!」
「…は、え??」
彼の反応がツボに入ったのか、ルイは抑えきれずに爆笑しはじめた。
リーマスは恥ずかしいやら意味が分からないやらでチンプンカンプンだ。
「まさかリーマスにそんなユーモアのセンスがあるなんて知らなかったわ。
ジェームズも面白いけど、さっきのは傑作ね。
何だかもうどうでも良くなってちゃった。」
「へ…あ…??」
「ありがと、リーマス。心配かけてごめんね。」
「……ルイ…??」
ルイはにっこりと笑っている。
さっきまでの冷たい表情が嘘の様だ。
「そうね、たった少しの間だけよね。
どうせ一ヶ月前の事だって覚えてないんだから、あんまりどうって事ないわ。
少しの間、記憶がないなんて。」
……この反応は、まさか。
否応にも口許が引きつる。
まさか、まさか、まさか……
リーマスの予感は的中していた。
ルイがまたアハハと軽やかに笑った。
「でも、ここまで壮大な嘘つけるなんてある意味凄いわ、リーマス。
作家の才能あるんじゃない??」
その言葉を聞いた瞬間、緊張と覚悟で張り詰めていた神経が、急にスルスルと萎んでしまった気がした。
体の力が抜けてしまったのか、リーマスはへなへなとその場に座り込んでしまった。
「リ、リーマス??大丈夫??」
ルイが顔を覗き込んで来た。
とりあえず首を縦に振るも、リーマスの体に立てるだけの力はもどらなかった。
しばらくすると、胸いっぱいの安堵感と、少しばかりの失望が体を包み込んできた。
顔を上げれば、ルイはまた笑いが込み上げてきたのか、またクスクスと笑いを漏らす。
今にも爆発しそうな爆弾の様だと、何と無く思った。
「あ…あは、は…」
つられた様に声を上げる。
ルイは体中で笑うのを堪えている様だった。
なんだ、何も変わってはいない。
彼女は変わらずに、笑っている。
自分の目の前で、笑っている。
「あ、は、あはは…」
何だか照れくさくなり、リーマスは眉を八の字にして頭を掻いて笑った。
その時だった。
「、、、」
突然、ルイの体がピタリと固まった。
「…ルイ…??」
「……ッふ…ふふ…」
不安になったリーマスが名前を呼ぶ。
同時にルイは顔を俯かせて、静かに笑うのを再開させる。
が、その声にリーマスは、何故だか背中の毛がぞわりと逆立つのを感じた。
「ふふ…ふ…ッあは…ははは」
空気を侵食していくのは、あの狂気。
癒されていたはずなのに。
幸せだったはずなのに。
「あはははは」
空になったグラスが奏でる様な空っぽの声で、彼女は綺麗に口を三日月型に開けて笑う。
かんらかんらと高らかに。
こちらを見つめて来る目にゾッとする。
その目に、優しさなど欠片もなかった。
「はははは、はは、」
目が、反らせない。
怖いのに、恐いのに。
聞いてはいけない事を聞いた。
そんな自分への罰なのだと。
けれど、それを自覚している自分がいた。
「あは、はっ、」
おかしくて、おかしくて。
仕方ないとばかりに彼女は笑う。
口を三日月型に開けて。
かんらかんらと高らかに。
彼女の声が、段々と大きくなる。
それは決して気のせいではない。
ぼんやりとする意識に。
優しく問いかけてみる。
世界が壊れない様に。
壊れてしまわない様に。
「はははははははははははっははは」
目の前で笑う、
悲しい目をした彼女は、
誰なのですか??
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」爆発したのは哄笑だった。
恐らく、世界で一番残酷な。
それは鼓膜をがたがたと震わせ。
そして脳裏にじっとりと焼き付いた。
「あはは、ははははッ…
あはははははははは!!!」
ルイは体を九の字に折り曲げ、声の続く限り笑い続けた。
意味もなく笑うその姿に、リーマスは思い出し始めた笑い声さえも出なかった。
不意に、彼女ががくん、と傾いた。
体を折ったまま、髪をダラリと垂らして。
それはまるで操り人形の様だった。
一歩踏み出したその音に、ギラリとナイフの様に光った褐色に、とっさに身がすくむ。
「…ねぇ、リーマス??
私も何個か、質問していいかなぁ…??」
地を這う様なその声は。
一切の否定も許さなかった。
ルイはニタリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
また1つ、恐怖が自分を取り囲んだ。
「…ひとーつ。
どうしてリーマスが、数年前の事件なんて知ってるの??」
「…それ、は…」
素直に答えるのが賢明だった。
リーマスは恐怖に固まる唇を無理矢理こじあけた。
声の震えが、隠せるワケがなかった。
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