happy days | ナノ


□happy days 41
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「何で…そんな事聞くの??」

聞き返された言葉は然し、純粋な狂気を孕んでいる。
それはこっそりと背中に突き立てられた、ナイフの様な声だった。

「…君は、両親が殺されるのを、」

見てたんだろう、という言葉は、口から出る事はなかった。
彼女の視線が、言葉の続きを知っているかの様に光った気がした。

「……君は、ハロウィンの時の記憶がなくて、怖がってたよね。」
「…えぇ。」
「もし今僕が、ハロウィンの間だけ…
君が別の人格になっていたって言ったら…
その言葉を、信じられるかい??」

褐色が、驚愕に染まる。
リーマスはじっとそれを見たまま動かない。
やがて、ルイがゆっくりと言った。

「………信じ…られるか…
…上手く…分かんないけど…
言われたなら、信じると…思う。」

片腕を握り締めたまま、ルイはリーマスから目を反らして言った。
信じるというより、信じるしかない。
ルイはそっとそう付け加えた。
その弱々しい言葉にほんの少し、罪悪感が募る。
頼むから、これから告げる言葉を許して欲しかった。






「君は小さい頃、シリウスと幼馴染みだった。」

その声に足を止めたのは、我ながら賢明だったと思う。
事実、シリウスの足は床に縫われた様にへばりついた。

「両親の結婚記念日に、
君は一人で部屋で遊んでいて、
……ある男に連れ去られた。」

敢えて、ルイの祖父だとは言わなかった。
流石にそこまで言う勇気はなかった。

「君の両親は君を助けだす為に男の罠に嵌り、
そして…君の目の前で、殺された。

ぴくん、と微かに彼女の肩が揺れたのを、リーマスはしっかりと見ていた。
心臓がひっくり返った様に脈動している。

「残酷な死で息絶えた二人を見た君の精神状態は危険なものになり、結果君は、小さい頃の全ての記憶を抹消された。」

嫌な汗が妙に冷たく首を伝って行く。
彼女はただ静かにそれを聞いていた。
寧ろ、平然としている事ができなかったのはシリウスだった。

どうして…知っているのだろう。
どうして…どうして、リーマスが??
これは僕の独り言だから、君は僕の言葉に惑わされる必要はない。
リーマスはゆっくりとそう言ったが、シリウスには、その言葉がまるで荒い呼吸を整えようとしているかに聞こえた。

「…僕が知ってるのは、ここまで。
これから先は、君が求めてる本から集めた話になる。」

視線を鞄へと移すも、彼女のそれが自分から反れる事はなかった。
恐怖を感じたのはやはり、自分だけだったか。
リーマスはまたルイを見た。
ルイは能面の様に冷たい表情を、一瞬も崩しはしなかった。



「……今から8年前。
聖マンゴ魔法疾患傷害病院から、
患者が一人行方不明になった。」



「…!!!」

シリウスは声を上げそうになった。
が、その声は喉の辺りで風船の様に萎み、音を奏ではしなかった。
フラッシュバックする感覚に負けぬよう、必死に足を踏ん張った。
真っ白な廊下、驚く癒者、そして振り返るのは…

「患者は…魔法界では『窮鼠と踊る猫』と呼ばれてるらしいね…PTSDという精神障害者で、心に深い傷を負っていた。
まだその患者は5歳で、何をするか分からなかったから、やがて病院側は捜索を断念して、2ヶ月後に行方不明になったと魔法省に報告した。

…でも、その3年後。
彼女はある日ひょっこりと、天外孤独になった兄の元に帰ってきたんだ。
それは一時世間を騒がせた。
…今はもう、皆忘れちゃってるけどね。」

首をすくめてみせる事で、リーマスは少しだけ生きた心地を取り戻した。
しかし未だに時間がちくちくと、皮膚に刺さっている。

「世間はただの誘拐事件としてそれを締め括った。
幸いその子にも、後遺症とかは見られなかったから、皆は奇跡だと胸を撫で下ろし、事件は幕を閉じた。
……ここまで言えば、もう良いよね??」

こちらを見据える褐色を睨んだ。
彼女は…ルイは、何も言わなかった。
ただ冬の冷たい風だけが、彼女の漆黒を優しく揺らした。



「…その子の名前、聞きたいかい??

『惨劇』とまで呼ばれた、
血塗られたあの事件の犠牲者の名前を。






それが、君だよ。



ルイ・ホワティエ。」






リーマスの声が、壁に反響した。
それはシリウスの脳内に延々と木霊し続けた。
誰も、口を聞かなかった。
3人に、言葉は存在しなかった、
大広間のざわめきが、微かに聞こえた。
けれどそれは、この場の雰囲気の奇妙さを際立たせる事しかできなかった。

ルイがふと、下を向いた。
サラリと彼女の頬を撫でながら、漆黒の髪がぶらんと空中にぶら下がる。
リーマスはゆっくりと口を開いた。
それはまるで今やっと、声の出し方を思い出したかの様なかすれ声だった。

「君の記憶がなかったのは、
君の中の、別の人格が、
…君の代わりに、生活してたからなんだ。」

そう。
あの強くも優しい彼女は。
彼女の一部であり、彼女そのもの。
そして。

「君を守る、たった一人の人だったんだ。」

何故だか涙が出そうだった。
気を抜けば、この目の前の彼女が。
霞んで消えてしまいそうな気がして…












「……プッ」










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