happy days | ナノ


□happy days 41
282/497







『気付いてなかったとは知らなかったなぁー…
てっきり自分で知ってるのかと思ってたよ。』

『数占い学』の先生の声を右耳から左耳へと突き通しながら、リーマスはさっきのジェームズの言葉を思い出していた。

『やたらとルイの事心配するし、気付いたらもう目で追ってるし。
最初は気のせいかと思ってたんだけど、こう何度もあると感付くよ☆』

そう言ってケラケラと笑ったジェームズに殺意が沸いたのも、気のせいではないのだろう。気付けば、手に持っていた羽ペンをへし折らんとするが如く、手に思いっきり力が入りまくっていた。
チラリと隣に居るルイを横目で見れば、向こうは視線を感じたのか、いつもの頼りない笑みを向けてくれる。
褐色が柔らかく光って、その漆黒と共に微笑んだ。

「……!!!」

不規則な心臓の音が、体中に響いた。
いつもならばにっこりと笑い返せたのに、何故だかリーマスはそのまま、つい、と視線を反らしてしまった。
嗚呼、きっと誤解をさせてしまったと内心思いながらも、リーマスはジェームズの言葉に反論をする気が萎えて行くのを感じた。

「(…否定できないから、かな。)」

少しどころではない。
かなりあの言葉は核心を突いて来ていた。
間違ってはいない。寧ろ大当たりだったのだから、つくづくジェームズ・ポッターという人間は凄いと思ってしまう。

満月が近くなる度に、頭の中は彼女でいっぱいになっていたのは事実だ。
別にそれは卑しい意味ではなく、自分でも驚くほどの速さと規模で、彼女は自分のキャパシティを軽々と踏み越えて来るのだ。
ただ見つめたり、ただ想ったり。
それだけでは、足りないのだ。
日常の幸せで良かったものが、ふいにそれ以上の幸せを求めて来る。
満月が近くなるほど、その欲求は激しくなり、独占欲が体を覆い尽してしまうのだ。

常に手の届く所に居て欲しい。
いつも自分の側に居て欲しい。
自分の一挙一動に慌てる彼女を。
壊れる位抱き締めたいと願うのだ。

「(…ガキだなぁ、まだまだ。)」

これでは盛りのついた犬と同じだ。いや、確かに同じ種族ではあるが。
自分にしか利益のない、しかも自分にそれがあるかすら良く分からないものを欲しがるなんて、いつもの自分からなら決して望まない事なのに。
月の光は人を惑わすとは良く言うが、自分もその類かもしれない。
思えば、ルイを問いつめた時もそうだった。
自分はもう、月に侵されているのかもしれないと、ロマンチックかルナティックか良く分からない結論を思ってみれば、案外気は楽になった。
もう一度ルイを見れば、視線に敏感なのか、また目が合った。
さっきの反応でやはり誤解させてしまったのか、こちらを見つめる褐色の瞳にも若干の躊躇いが見える。
それでもちゃんと笑おうとしているのが、酷く痛々しかった。

リーマスは、微笑む。
その愛しさに、泣きたくなった。
鞄の中で息を潜める一冊の本に書いてあった事が、嘘であればいいと願った。







「ごめんねリーマス、ついて来てもらって…」
「全然構わないよ。」

にこりといつもの、けれどいつもよりやや嬉しそうな声で答える。
いちいちそう言わなくとも、ルイがそれに気付かない事をリーマスは知っている。
二人は授業の帰りに図書館に寄り、大広間に戻るべく廊下を歩いていた。

「でも珍しいね、ルイが本返すの忘れちゃうなんて…」
「アハハ…頭からすっかり抜けちゃってて。
以後気を付けます。」
「よろしい。」

そんな他愛もない事で、笑ったり。
半分ふざけながら、一緒に居たり。
こんな時間が、自分の中の激しい欲求を満たしているのだから驚きである。

「あ……ねぇ、リーマス。」
「ん??」

ルイの呼び掛けに、リーマスはくるりと振り返って彼女を見る。
そこには、大好きな彼女が居るのだという確信のままに。
刹那、その笑顔が凍った。









「鞄の中の本、返さなくて良いの??」









ド ク ン …










頭の中の、彼女への言葉が。
急に跡形もなく吹き飛んだ。
仲介も、説明もなかった。
彼女は的確に、本の内容に触れて来た。
リーマスが本を持っている事なんて。
…知らない、はずなのに。

「(…どう、して??)」

そうだ、きっと彼女は知っていたのだ。
自分がどこかで読んでいるのを見たのだ。
でなければ、分かるはずがない。
マダム・ピンスにだって口止めしたのだから。
頭の中ではそんな言葉がクラッシュしあう。
自分が必死になっているのが嫌でも分かっていた。

「…返さなくて良いの??
ちゃんと修理に出さないと…
すぐに壊れちゃうよ??」

至って普通に、心配げに。
ルイは言葉をぶつけてくる。
そうだ、修理に出さなきゃ。
ルイだって言ってくれたじゃないか。



修理に出すほどの本だという事を、

…知らない、はずなのに。




恐怖が、カツン、カツンと音を立て、ゆっくりと近付いて来る。
…いちかばちか、だった。



「ッ僕は…






ルイの、味方だよ。」



歯と歯の隙間から漏れたそんな言葉が、けれどキンとした空気の中を流れて行った。
困惑しているのか、目を見開いたまま何も言わないルイに、リーマスは一気に勢いをつけてまくし立てた。

「ルイを、一人にさせないから。
一緒に居て…あげるから。」

それは、自分が望んだものだ。
自分を一人にしない人を。
自分と一緒に居てくれる人を。
探していた自分が…望んだ言葉だ。

あの本を手に取らなければ。
あの時興味本位で借りなければ良かった。
そんな後悔が胸をよぎる。
けれど、たった1つの真実を、
見つけることが出来た。
それは、とても悲しいものだったけれど。
今の自分には、十分すぎるものだった。



「…だから……教えて。
君を一人にさせないから。






僕等についた嘘を、

全部、話して。












「あー!!息苦しかったー!!!
鼻が曲がるかと思ったぜ!!」
「だよねぇ…あのお香は流石にパス…」
「ち、ちょっと大丈夫ピーター!!
顔色真っ青よ!!?」
「あー、気にしなくて良いよリリー。
ピーター人より鼻が利くから、ああいうお香とか駄目なんだ。」

北校舎の『占い学』の授業から帰ってきていたシリウス達は、教室に立ち込める怪しげなお香の臭いでぐったりしていた。
あれで焚いている本人に何のダメージもないのだから笑えてくる。

「あ…そういえば…ルイとリーマスにそのまま大広間に行くって言うの忘れてたわ。」
「あの二人なら自然と来るんじゃない??」
「…俺が呼びに行って来る。
お前らは人数分席取りしとけよ。」
「…わざわざ呼びに行くものでもないじゃない。」
「いーだろ別に…気分だ気分ッ!!」

何と無くあの二人が一緒に居るのが気に食わなかったのか、シリウスはさっさと『数占い学』の教室へと歩いて行ってしまった。

「……じゃあリリー☆
僕らh「行きましょうピーター、早く何か気分の良くなるもの食べた方がいいわ!!」
……あの「あんまりこってりしたものは食べない方がいいわ。そうね…オートミールとかいいんじゃないかしら??」
…リリー「そこで何してるのよ地球の廃棄物。さっさと行くわよ。」……」

ずけずけと言うリリーの言葉の矢が、容赦なくジェームズに突き刺さる。
ピーターはそれをはらはらしながら見ていた。
急に、ジェームズが蹲る。

「ジ、ジェームズ…??」
「…お、お腹が急に痛く…(演技)」
「あら大変、拾い食いでもした??」
「最早僕を人間と認めてないねリリー。」
「強いて言うならオランウータンが妥当ね。」
「下手な動物より嫌だよそれ!!」
「黙れや年中発情男。」

…シリウス達、早く戻って来て!!
嘔吐感と戦いながらピーターは願った。







[次へ#]
[*前へ]



[戻る]
[TOPへ]
bkm





×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -