happy days | ナノ


□happy days 41
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孤独な人間は、この世で最も強い。

────Henrick Ipsen




「ルイ!!!」
「へ。」

我に返った瞬間、ルイの眼前には白いクッションが迫って来ていた。
悲鳴も驚きの声も上げる暇もなく、それはルイの顔面に直撃し、ルイはなすすべもなく倒れた。
が、後ろにはまた別のクッションが敷かれていたお陰で大事にはいたらなかった。

「ルイ、大丈夫ッ!!?」
「ご、ごめんねルイッ…」
「どこか打ったりしてない??怪我は??」
「…あー…うん…大丈夫…」

リリーやリーマス達が慌てて駆け付け、四方からルイを覗き込んで来たが、本人は今だに状況を把握していないのか、ぼんやりと天井を見上げながらゆっくりと答えた。

それを横で見ていたのか、起き上がるルイを見て安心しながらも、ジェームズはヒソヒソとシリウスに話しかけた。

『…ねぇ。やっぱりルイ、最近おかしくないかい??』
『…そうか??いつも通りだと思うけどよ。』

シリウスの返答に、ジェームズは少なからず驚いた。
彼女の事になると一喜一憂するばかりだった彼から、こんなに素っ気無い返事が返って来るとは思わなかったからであろう。

『…何だよ。』
『いや…何か、意外だなって。』
『何だそれ…』
『…やっぱ、君も変、だよ。』

ジェームズはヒュッと杖で空を凪いだ。
白いクッションはその動きにつられる様に宙を飛び、先程のルイと同様に、シリウスの顔面に追突した。
『むがッ』と叫び、シリウスが倒れる。しかし彼が倒れた所はクッションが敷かれていなかったらしく(要するに床である)、その瞬間ゴッという鈍い、それでいて小気味良い音が聞こえたのだった。






異変の様なものはそれだけではなかった。

『…ルイ、ルイッ!!』
「…ふぁ…??」

必死の呼び掛けが聞こえたのか、ルイは寝惚け眼のまま起き上がった。
リリーに向かって小首を傾げ、彼女がチラチラと正面に視線を向けているのにつられ、ルイは前を見た。

途端に突き刺さる、視線。
中にはこっちを覗き込んで来る生徒も居た。
マクゴナガル先生のため息が聞こえた。






「そんなに気にする事ないって〜たかが5点だろう??
罰則もらうまでじゃないんだから元気出しなよ!!」
「よりによってジェームズかよ。」
「あんまり言葉に重みがないよね。」

ジェームズがそう言って励ますも、ルイのため息はますます重みを増すばかりだ。まぁ、言ってる本人が元気なところを見る分には、説得力は十二分にあった気もするが。

「そ、そうよルイ!!
気にしなくても良いじゃない!!
5点なんて他の人が稼いでくれるわよ!!」
「お、リリーが乗ってきたぜ、珍しい。」
「藁にもすがる思いなんだよきっと。」
「君達さっきからうるさいよもうっ!!」

外野はさておき、先程まで『5点…5点…』とシクシク呟いていたルイが、リリーの言葉にチラリとこちらに視線を向けた。
リリーはそれに畳み掛ける様に突き進んだ。

「き、きっと疲れてるのよ!!
それにホラ、寝顔可愛かったし!!
「テメェの本音だろそれ。」
「でも否定はしないんだねシリウス。」
「否定するメンバーもいないけどね。」

否定出来る自分がいない事に多少恐怖を覚えて来ちゃったピーターだった。

「ホラ、元気出して!!
嫌な事なんか忘れて、今度のホグズミードの計画でも一緒に立てましょうよ!!」
「ぇ??あ…う、うん…」
『(そしてどさくさに紛れてちゃっかり一緒に行く約束確定しちゃってる!!!)』
「…あ、そうそう、リーマス。」
「え、何??」

シリウスとピーターがリリー達と話している間に(専らリリーとシリウスの口喧嘩だが)、ジェームズはリーマスに近づいて囁いた。

「次…もうすぐだよね。」
「……あぁ…うん。」

リーマスの表情が少しばかり曇った。
ジェームズは『そんな顔しなくても』と言って苦笑したが、リーマスは曖昧な返事しか出来なかった。

「ほら、ホグズミードには被らない様にしないとね。
折角だし、今年最後のホグズミード休暇はやっぱりみんなで過ごしたいじゃないか。」

けれど、まるでお祭りか何かの様に気楽に笑いながら言ってくれる彼は、矢張優しいと思う。
こちらが気を病まぬ様に。
あまりそれを過酷視しない様に。
だから自分は彼とつるんでいるのだと改めて思った。

「…大丈夫。
きっと休暇までには終わると思うし。
長年のカンだから間違いないよ。」

少しばかりおどけてみせる事が、彼の不安を取り除く為の一番の方法だった。
こめかみをコツコツと叩いてそう言ってみせれば、ジェームズはいつも安心した様に笑顔になる。
これもまた、昔取った杵塚だった。

「……でも、良く分かったね。
あのルイでも気付いてなかったのに。」
「そりゃあ……って、え??
…もしかして、気付いて…ないの??」
「…??」

リーマスは我存ぜずと小首を傾げた。
ジェームズはしばらく硬直していたが、やがてポンと手を叩き納得した様に頷いた。

「あーぁ、成程…無自覚か!!
ムーニー、君もなかなかだねぇ…」
「は、ぁ…??
言葉が通じてないんだけど、ジェームズ…」
「イヤイヤ、気付かない方が粋だよ。
しかし…成程、これはまた…ふむ。」
「…ッだから何なんだよもー!!
言いたい事があるなら言いなよ!!」

ニヤニヤしながら自分を見るジェームズに痺れを切らしたのか、リーマスは声を上げた。
それを見て、ジェームズはニヤニヤ笑いをやめて、綺麗に綺麗ににっこり笑って見せた。
その笑顔は…何と無く直感する。
リーマスは自分がせがんだ事を後悔した。

「僕の勝手な基準だけど、

満月の日が近くなるとね、

君、



異様にルイの事に過敏になってるよ??」



「…!!!??」

リーマスの頬が真っ赤になった。
バタン、と大きく音を立てて落ちた彼の鞄は、その音でギャーギャー騒いでいた4人の視線を集めるには充分だった。

リーマスは口をぱくぱくさせている。
何でそんな事、とか。
一体どこに根拠があるんだ、とか。
言いたいけれど言葉にならない。
ちょうどそんな感じだった。
ジェームズは再度にっこりしてあげた。
僕は何でもお見通しなんだよ、とでも言いたげに。







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