happy days | ナノ


□happy days 40
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しばらくするとジェームズの思惑通り、ルイが大広間の扉から姿を現した。
ルイは至って普通に、ジェームズ達のいる席へと足を運んだ。

「ルイ!!貴方どこに行ってたの!?」
「え、い、医務室、だけど…??」
「具合でも悪いのかい??」
「うん、ちょっとだけ。
薬飲んで来たからもう大丈夫よ。」

ルイはリリーの剣幕がおかしかったのか、クスクスと笑いながら答えた。
その笑顔に納得するも、リーマスだけは今だに心配する様子を解く素振りは見せなかった。

「…ルイ、昨日ちゃんと寝た??」
「え??」
「隈出来てるよ。」

うっすらとしか見えないが、それは確かに自分の見間違いではなかった。
が、ルイは特に気にしてはいないのか、『少しだけね』と答えるだけだった。
もうそろそろ移動しなければならなくなったので、6人はそれぞれ席を立った。
リーマスは再度、リリーの隣へと駆けて行くルイを見て、釈然としない気持ちを胸に秘めながら椅子をガタリと机の方へ押してやった。





彼女の異変に気付いたのは、それから3日後の事だった。

「Ms.ホワティエ!!!」

マクゴナガル先生の厳しい声で、ルイはやっと目を覚ました…否、我に返った。
居眠りをしていたらしく、その教室にいた生徒全員の目がこちらを向いている。
耳の後ろが途端に熱くなった。

「今日で貴方を注意したのは4回目です。
次からは減点しますよ。」
「す、すみません先生…」

厳しいタカの様な目でジロリと高圧的に睨んできたマクゴナガル先生に、ルイはうなだれる。
マクゴナガル先生が黒板に向き直ったのを見届けると、リーマスはルイをチラリと見た。

窓際に座るルイの漆黒の髪を冬の白みがかった日差しが温めていて、サラリと音が小さく流れれば、極彩を放つ光がキラキラと髪の上を走った。
褐色の目は相変わらず眠いのか、時たまうつらうつらと閉じたり開いたりしている。
その様子に途方もない愛しさを感じ、そして何と無く、一生、こうやって彼女を見つめていられたら、と考えてしまった。

残された時間は長い様で短くて、何もしなければ長く感じる癖に何かをやろうとするにはあまりにも短すぎる。
そんな時間が酷く嫌いだった。

あと4年で、この気持ちはいずれ決まる。
胸の内に秘めるか、見事に花開くかだ。
そして、自分はいずれ変化する。
変化すると願っている。
そうでなければきっと自分は、彼女の隣には居られなくなってしまう、から。

だから、今だけは。
この目に焼き付けたままでいたい。
温かい日差しの中で眠る彼女が。
自分の中で、永遠のものになる様に。

眠気が伝染してきたのか、瞼が心地好い温かさで重くなってくる。
リーマスはぼんやりと半目になった目で、もう一度ルイをそっと盗み見た。
彼女はやっと睡魔に一時勝利した様で、今は窓の向こうを見つめている。

その表情に、重い瞼が軽くなる。
何故なら彼女はこんな穏やかな世界でたった一人だけ、酷く悲しげな顔をしていたから。



「…なんて、来なきゃいいのに。」



失望と絶望を重ね合わせたような小さな小さなその声は。
リーマスの耳に何故かひどくこびりついた。

しかしそれは、その数秒後に轟いた『Mr.ルーピン!!!貴方もですか!!』というマクゴナガル先生の声に掻き消された。






「そ、そういえば、今度のホグズミード休暇の日時が掲示板に張り出されてたよ。」

いつもより何故か賑やかな廊下を歩きながら、ピーターはふと思い出した様に言った。
途端にジェームズとシリウスは『何ィィィイイッ』と叫び、続いて我先にとばかりに一目散に掲示板へとダッシュしていった。
残された4人が追い掛けたが、既に掲示板の前にはかなりの人だかりが出来ていた。

「お、多いね…」
「毎年クリスマスの季節になると、ホグズミード村の広場に巨大なクリスマスツリー用のモミの木が置かれるからね。
しかも今回の休暇は、飾りに火を付ける日と重なってるらしいよ。」
「あら、でもそれじゃ木が燃えちゃうわ!!」
「防火呪文を木全体にかけて防いでるらしいよ。」

噂によると、暗くなった広場で輝くクリスマスツリーは酷くロマンチックでかなりの美しさらしい、と言った頃には、リリーの目はそのクリスマスツリー並に輝いていた。

「素晴らしいじゃない!!
ルイ、絶対一緒に行きましょうね!!」
「ぇ…えぇ!?」

ルイが驚愕の声を上げる。
ジェームズとシリウスが人混みから吐き出される様に出て来、こちらにやって来た。

「…私と一緒じゃ、嫌…??」
「そ、そういうんじゃないけど…」

シュンと耳の垂れた犬の様になったリリーに、ルイはモゴモゴと口ごもった。
その言葉は口から出る事なく、ルイのそれはジェームズの声によって遮られた。

「君には僕が居るだろう、リリー!!!
雪降る中でのクリスマスデートなんて、僕と君の為にある様なものじゃないか!!!」
「他に理由でもあるの??」
「と、特にはないけど…ていうかリリー、ジェームズh
じゃあ一緒に行きましょうよ!!!ねぇ??」
『(無視決め込まれてる!!!)』

今度は一体何をしたのだろうか。
リリーは真っ向からジェームズの声を、酷く言うなら存在自体を否定した。
ホグワーツ生が激しい突っ込みの念に駆られたのは、言うまでもない。






ルイが何とかリリーに頼み込み、返事をするのはまた今度という事にしてもらった次の日、ルイは朝食に来なかった。

リリーによると、具合が悪いとしきりに言い、ベッドから顔を出さないらしい。
4人の少年達は口々に理由を考えた。

「何かあったのかなぁ??」
「寝不足とかそんなモンじゃねぇの??」
「お、お腹でも痛いのかな…」
「…心配、だね。」

最後に呟いたリーマスの言葉に、皆はゆっくりと頷いた。リリーなど今にも泣きそうだ。
とりあえず彼女を待っていても埒があかないので、皆は先に1時限目の授業へと向かう事にした。
元気のないリリーを心配してジェームズが何かと騒いでいる内に、シリウスはリーマスの隣へ移動した。
リーマスも、シリウスが話したい事の見当はついている様だった。

「…お前、どう思う??」
「何かあったのは確実だよ。」

リーマスは眉間に皺を寄せて答える。
周りの喧騒は、思考にのめり込むにはあまりにも邪魔だった。

「しかし、誰もアイツにちょっかい出してねぇだろ??
つい最近まで俺ら全員入れ替わってたし」
「そこなんだよ。
別に誰に何をされたワケでもない。
ルイが授業を休むなんてする事はないと思うし、まず理由がないんだ。
でも、…やっぱり、おかしいんだ。
…何か、嫌な感じがするんだ。」

体の奥底から這上がるその寒気に、リーマスは思わず自分の片腕をギュッと掴んだ。
名前を付けるには到底難しい、それは奇妙な恐怖だった。

「………あ。」
「!!!?」
「…そっか。」

シリウスはぼんやりと遠くを見る様な目で言った。
それは、リーマスには分からないものだった。
彼女と…恐らくこの目の前の彼だけが、知っている事だった。
窓の外は冷たい晴天で、何の不安もなかったはずなのに。

「…もうすぐ、だっけな。」
「な、に…が。」

切れ切れに聞いた自分は、けれどその答えを知っている。
けれど今は、それを忘れなければいけない気がしてならなかった。
シリウスの低く心地好い声が、緩やかに鼓膜を震わせる。






「…アイツの、

両親が、死んだ日。」






窓の外は冷たい晴天で、
何の不安もなかったはずなのに。

何故だろう。
急にその色が、信じられなくなった。











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