happy days | ナノ


□happy days 38-B
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「…仕方、無いんじゃない、かな。」



途切れ途切れの言葉をゆっくりと紡いで行く。
出来るだけ、彼女にだけ伝わるように。
彼女に伝わる為だけの言葉として聞こえるように。
シリウスもといルイがこちらに目を向けた。
言われたことが上手く分からない、と言いたげな表情だ。

「だからさ、その…
伝えたい事とか、言いたい事とか、
はっきりと言う事って、きっと凄く難しいと思うんだ。」

まだこうやって、全てを綿に包む様な言い回ししか出来ない自分達にとっては、それはまだ、あまりにも聡明な行為で。
例え上手く行ったとしてもそれは運がいい方で。

「言葉には、いろんな意味があって。
そしてまたその中に、いろんな使い方もあって。
それが何重にも何重にも重なってて、その中でたった1つだけ、正しい答えを見つけるのって…
考えるだけでも難しい事だと思わない??」

きっとどんな難度の高い魔法薬を作るよりも。
どんなに難しい数式を解くのよりも。
何よりも『正しい答え』を見つけるのは。

「…でも、やっぱり見つけたがるんだよね。
どうにもならない事でも、何とかしようと思って、
今の君みたいに、足掻いて、必死になって。」

そして、いずれ気が付いてしまう。
自分が探していたものが、いつの間にか。
自分のはるか後ろにあることに。
求めていた『正しい答え』はもう既に。
自分の隣をすり抜けていたことに。

「…きっとさ、それはすぐ近くにあるんだろうね。
凄く近くにありすぎて、時々その存在を忘れちゃう位、それは身近なもので、当たり前なことで。
でもそれを見失ってから、改めてその場所が何処にあるかを忘れちゃうようなものなんだろうね。」



それが例えどんなに愚かしい行為だとしても。
それでもその答えに少しでも近づこうとする。

手に入れたいと願ったものは。
余りにも自分に優しくて、余りにも近くにある物なのに。



「きっと、今ルイが探してるものも、ルイのすぐ傍にあるはずだよ。
それはルイが気付いてないだけで、本当はすぐ手が届く位の距離にあるものなんだ。

忘れるという事は簡単だけど、それとは反対で思い出すという事は酷く難しい事だけど。

それが何かさえ気付けば、笑っちゃう位簡単に、手に取れるようなものだと思うよ。」



ほら だって

君が探しているものはそんなにも

君のすぐ傍にあるじゃないか



「…そう、かな。」
「あくまで僕の個人的意見だけどね。」

一応付け足したが、ベッドから起き上がったシリウスもといルイは首を振り、ゆっくりと微笑んだ。
寝癖の所為か、やおら膨らみを帯びた黒髪がフワリとその顔にかかった。
優しげな光を灯す灰色の瞳の裏側にはやはり、あの褐色の瞳の少女が居た。

「ううん。
…やっぱり、リーマスは凄いよ。」

その笑顔に、顔が否応にも熱くなる。
顔はシリウスなのに…人の表情と雰囲気と言うものはつくづく恐ろしいと思った。
少しばかり顔を背けて『皆の所、行く??』と聞けば、シリウスもといルイはにっこりして頷き、ベッドからヒョイと身のこなしも軽く降りた。
何となく、一人で慌てている自分が嫌だった。

「…ねぇ、ルイ。」
「ん??」

シリウスもといルイはくるりと振り返った。
「あんなに長々と演説した後で何だけどさ、
ルイはセブルスとキスした事については何も思わないのかい??」
「えッ…」

ルイは突然の質問に驚き、そして顔を赤くした。
セブルスもといリーマスは形成の逆転で勢いがついたのか、いつもの緩やかな、けれど意地悪そうな笑みを浮かべてシリウスもといルイに畳み掛ける。

「だって中身からしたらそうなるだろう??
何も思わないのかなぁって思ってさ。」
「え、あ、う…」
「で、率直なところどうなの??」
「ど、どうって言われても…」

シリウスもといルイは真っ赤になりながらも、口の中で言葉を噛み潰すようにモゴモゴと口ごもっている。
やはり中身はルイだと改めて思ってしまった。

「…じゃあ、質問を変えようかな。」

セブルスもといリーマスは口元をゆがめてクスリと笑い、スッと滑らかに移動してシリウスもといルイの前に立った。
動揺して一歩後ずさったシリウスもといルイの腕を掴み、セブルスもといリーマスは困惑を湛えたその灰色の瞳を覗き込むように顔を近づけた。






「今ここで僕とキスしたら

ルイは

セブルスと僕のどちらを好きになる??」













「どうしてあの時、ルイは自分とシリウスが付き合う事をあんなにも拒否したんだろうね。」
「どうしてって…そりゃあアレだろ??
俺と、その…つ、きあうのが……嫌だ、って…」
「…言いたくないなら言わなくてもいいよ??」
「………あぁ…」
「(うわぁ…ヤバイ、すっごい気にしてるめっちゃ気にしてる死相みたいな顔してる…)」

まるで今にも臨終しそうなルイもといシリウスを見て、ピーターもといジェームズは久しぶりに自分の言葉に対して後悔を感じた。

「…まぁ、もしかしたらそれもあるかもしれないけど、」
「(グッッッッサァァァァッ(言葉の刃が刺さった音))」
「だから人の話聞いてよシリウス。
『もしかしたら』って話しかしてないじゃないか。」
「…そ、うだよな、うん。
そうそう、『もしかしたら』の話だよな!!」
「(復活早いなぁ)で、話を元に戻すよ。」

シリウスの単細胞さが発覚した瞬間だった。

「例えホントにルイがシリウスと付き合いたくないと思ってたとしても…はいそこーダメージ受けなーい…ルイがあんなに露骨に嫌がるなんて思えないんだよね。
ルイは人に気を使う方だし、シリウスを嫌いだったとしてもわざわざ表情に出すかな??
それがずっと引っかかってるんだよね。」
「じゃあ…他に理由があるって事かよ??」
「憶測だけど、そうとしか思えないんだよね。
現にルイがシリウスを嫌ってるとは思えないし。」

向こうからリリーもといセブルスがジェームズもといピーターに指示をする声が聞こえる。
どうやら火の調子が少し強かったらしい。
ジェームズは大鍋の方をチラリと見やり、またルイもといシリウスの方に視線を戻した。

「…それで、全く逆の事を考えてみたら、何だかそっちの方がしっくり来る様な感じがしてならなくなっちゃったんだよね、これが。」
「逆の事って……ッ!!?」

ふと考え込んだルイもといシリウスが、突然顔を赤くする。ピーターもといジェームズはニヤリと笑った。

「そう。要するに、






『ルイがシリウスと付き合う事に対して恥ずかしさを感じて怒った』としたら??っていう事。」












「…なんてね。」
「…………へ??」

間抜けな声を出して答えれば、セブルスもといリーマスは天使の微笑を浮かべてクスクスと笑った。
シリウスもといルイはポカンとしたままである。

「うそうそ。キスなんかしないよ。
ちょっとからかってみただけ。」
「なッ…!!!」
「僕外で待ってるねー(笑」

よほど反応が楽しかったのか、セブルスもといリーマスは絶えず笑みを零しながら部屋を後にした。
パタン、とドアが閉まったのと同時に、シリウスもといルイの顔はボン、とトマトの様に赤くなった。
一人意味不明な焦りに動揺して、ルイは思わずベッドにもう一度頭から倒れ込む。
白いシーツは人肌がないとすぐに冷たくなり、逆に火照りが治まるどころかどんどん発熱していく自分の体を冷ますには丁度良かった。
耳元ではまだ、先ほどのセブルスもといリーマスの声が反響している。



『今ここで僕とキスしたら

ルイは

セブルスと僕のどちらを好きになる??』




真剣な表情でそう言ってきたのは、セブルスの顔。
けれどその目の裏側にいたのは、リーマスの瞳。
言われた瞬間に体を包んだ自分の鼓動。
ワケも分からず、浮かされる様な熱に歓喜した細胞。



どちら 

を 

好き 

に 

なる 

??




胸の中で疼くたまらない快感にも似た熱に、シリウスもといルイはぎゅっと目をつぶった。
今視界を閉ざさなければ、自分がとんでもない人間になってしまう気がした。







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