それは 気付いてはいけないこと
それは 求めてはいけないこと
私が私でいるための
貴方が貴方でいるための
それは 魂に刻まれた約束
それは 心に染み込んだ契約
グツグツと気泡を泡立たせながら、真鋳製の鍋の中の奇妙な色をした液体が煮えたぎっている。
時折薬草を振り掛けながら、その液体を掻き混ぜるリリーもといセブルスの顔は、何故か鬼気迫るような表情だった。
「…ねぇ、その薄ら笑いどうにかならない??
リリーな分余計に怖いんだけど。」
「うるさい。僕がどんな表情をしようが僕の勝手だ。」
「…ねぇ、さっきのワンモアプリーズ。」
「はぁ??…うるさ、い??」
「違うよ!!その後のセリフ!!」
「は??!…ぼ、僕がどんな表情をしようが…??!」
間。
「…
ッぐっはぁ!!可ッッッ愛いィィィ!!」
「…とうとう神の領域にさえ達したね。」
「てーかあのセリフの何処にときめいたんだよ。」
「だって考えてみてよ!!『僕』だよ『僕』!!
ボーイッシュ的魅力と幼児的愛らしさがプラス!!
女の子は可愛いだけじゃ駄目なんだよ!!
ドジッ子もツンデレも可愛いけど、妹系要素も必須なんだよ!!」
「いちいち説明すな。イヤ同意は出来るけど。」
「最早13歳の少年の言葉とは思えないね。」
「(…誰かコイツ殺してくれ。)」
ガチャリと音を立てて開いた扉に、やや白く曇った空気が吸い込まれていく。
外から入ってきた少年は中から漂ってきた臭いに眉を寄せた。
「…相変わらず嫌な臭いよね、セブルスの作る薬って。」
「それは僕自体が変な臭いをしている事の揶揄か??エヴァンス。」
「あらあら、そんな滅相もないわ。
私はこの臭いが好きよ、とっても、ね。」
リーマスもといリリーはわざとらしくニッコリしながら首をすくめた。『何処に行っていた』という質問は、敢えて誰もしなかった。
「ねぇ、リーマス☆」
「何だいジェームズ☆」
「モノは相談なんだけどね、
元に戻った暁にシリウスに与える刑罰は何が良いと思う??」
「やめてェェェェェェェェェ!!!」「うーん、やっぱり手始めに
絞首刑行こうか☆」
「しかも何ノッちゃってるの!!!」
「いや、もう既に君全校的に犯罪者だよ??
目の前で僕等を見てる人達に説明するみたいに言うと、幾等君の姿をしたルイがやった事だとしても、客観的便宜上事実上にして見たら周りからは明らかに、『女遊びの激しいと噂のシリウス・ブラックが完璧主義者でで清廉潔白で才色兼備の代表的存在のグリフィンドール生リリー・エヴァンスの
初!!キッスを奪っちゃったよコノヤロォォォォ』という光景にしか見えないんだよ??」
「アッハッハー何か手元が狂いそうだァァァァ!!!」「満面の笑み浮かべながらこっち杖向けんなァァァッッ!!!」
『ねぇ、さっきの見た??!』
『見た見た…やっぱりブラックって…』
『とうとうあのエヴァンスにまで…』
『命知らずだよね…』
周りからはそんな囁き声が聞こえて来る。
野次馬共に中指の一本でもくれてやりたい所だが、怒りよりも羞恥の方が優っていた。
そして、当のシリウスもといルイはというと。
「……ルイー??…」
「………ッッ…!!!(ダッ)」
「あ、何も言わずに逃げた。」
シリウスもといルイは顔を真っ赤にしながら一目散に駆け出し、その場を去った。
その背中にすがる様な目を向けたルイもといシリウスの周りには、生徒達の隠鬱とした囁き声だけが残響していた。
「…ルイは、どうした??」
「あら、やっぱり聞くの??」
聞いて来るとは思わなかったらしい。ボソリと呟いたリリーもといセブルスに、リーマスもといリリーはびっくりした様子を隠しきれない様だった。
リリーもといセブルスは大鍋を掻き混ぜる手を休めて杓子をコトリと机に置き、眉間に皺を寄せた。
「僕が聞いたらおかしいか??」
「いや、別にそういうワケじゃないけど…」
「……ッ」
「オイ、リーマス。ジェームズの口塞げ。
今にコイツ『一人称『僕』のリリー萌えェェェ』とか叫び出すぜ。」
「はいはーい。
ていうか寧ろ殺っちゃう??」
「コイツの為に人生棒に振るのだけは御免だ。」
「あはは、それは同意ー」
「……兎に角、全員が集まらなければ始まらないだろう。今は個人の問題でどうこうしている暇はない。」
「…まぁ、私は別に良いけど…
まず貴方は大丈夫なの??
幾等外見が私とシリウスって言っても、中身から見たら貴方はルイとキスしたって事になってるのよ??」
「…何かリリー嫌に冷静だな。
キスの事普通に受け止めてるし。」
「犬に噛まれたとでも思ったんじゃない??
リリーって思い込むだけは得意だから。」
「…相手が俺なだけに犬か??」
「座布団2枚は貰えるかな。
良く気付いたね☆」
「(寧ろコイツの頭の中を予想出来てきてる自分が悲しい。)」
「………」
「……セブルスー??」
「…大丈夫ダトモ。アア大丈夫ダトモ。」
「それならちゃんと目ェ合わせなさいよ。」
大鍋の中の液体がゴポリと泡立ち、その中から白い一筋の煙と共に鼻をつく臭いがまた1つ零れた。
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