ルイはオロオロしながら事の成り行きを見守ることしか出来ない。
リーマスはそれを見て何を思ったか、自然な流れでルイの隣に落ち着いた。
気付いたルイが身体を強張らせるのを見て、リーマスはそれを遮る様に口を開いた。
「ごめんね。」
「……え…」
「…言えたら、凄く楽になるんだけど。
でもごめん…今はまだ、言えないんだ。」
マクゴナガルに口止めされたからと言う理由もある。
けれどその裏側で微かに蠢くのは。
彼女の中のあの少女を、忘れたくないから。
ルイに洗いざらいぶちまけるということは、彼女の中のあの少女を、今目の前に居る彼女と同格同価値のものだと認識してしまうことだ。
それはすなわち、彼女が自分に感じさせた彼女の特殊性への崩壊を意味する。
自分の中身を抉り出して、膿を吐き切らせて。
誰よりも自分を楽にしてくれた彼女が。
特別ではなくなってしまうのが、怖かったのだ。
だから、
「いつか、」
いつか、
「必ず、話すから。」
必ず、認めてみせるから。
必ず、全て包み込んでみせるから。
いつか、必ず。
君の全部を、まるごと好きになってみせるから。
「………リーマ」
「ルイ────ッ!!」ルイの言葉を遮る叫び声に、ルイは思わず振り返る。
見れば、流石に疲れたのか汗だくのまま全力疾走しているジェームズの姿が目に飛び込んできた。
後ろからは既に修羅と化したリリーとセブルス。
はたから見なくとも恐ろしい光景だった。
「パァァァァァァァスッ!!!」
すぐ脇を通り過ぎた威勢の良い声と共に手の平に感じるのは、堅くて冷たいガラス製のもの。ポチャン、と音を立てて、中の深緑色の液体が波打った。
ルイは褐色の目をぱちくりさせた。
「………へ??」
「「返せエエエエエ!!」」
「こっち渡してエエエ!!」
「え、ちょ、ま、えェ!!?」
混乱状態のルイに、三人の各の声が更に拍車を掛ける。ルイの頭は既にパニックだ。
旋回する視界。
選択肢の決まらない俊敏の決断。
オーバーヒートしたルイの脳が実行させたのは…
「…………ッえぇぇぇぇぇいッッッ!!」
「あ、」
自分の頭のほぼ真上の上空に、ルイは小瓶を放り投げた。
くるくると回転する小瓶に、全員の目が注目する。
よほどの力で放り投げたのか、小瓶はゴッと鈍い音を立てて、天上の凹凸に衝突した。
コポンと小気味良い音がして…蓋が、外れる。
ヒュウゥゥ…と風を切り、白い煙をその身で裂きながら、
小瓶はニュートンの法則よろしく、高度を落とし始める。
一度は倒れていたシリウスがやっとこさ起き上がり、何事かと周りを見回し、
やはり運動能力のなかったセブルスが、ローブの裾を踏んでまたもやすっ転び、
それにつられたリリーさえも巻き添えにすっ転び、
(『ぐぇっ』という蛙の様な声でセブルスが呻き、)
『魔法薬学』の先生が、『グリフィンドールとスリザリン、20点減点!!』と叫びながら慌てて腰を上げ、
そして、
存在すらも忘れ去られていたグリフィンドール生、ピーター・ペティグリューが、
騒動で強打していた頭を摩りながら涙を拭った瞬間。
────ぼちゃんっ小瓶は吸い込まれるようにして、ピーターが魔法薬を作っていた真鍮製の鍋に落下した。
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