happy days | ナノ


□happy days 35
244/497







地下牢教室へと入れば、いつもの薬草と臓器の、独特の生臭い臭いがした。
何度来ても慣れない、ルイはそう思って顔を歪めた。
『魔法薬学』好きのセブルスには悪いが、矢張苦手なものは苦手なのだ。
元々グロテスクな材料が主なこの授業は、どう考えても自分の好きな分野とは言い難い。
時折この授業が好きだというセブルスの神経を疑う事だってある位、苦手だった。

窓がないので煙などがこもる所為か、薄暗い照明に照らされた天井は些かぼんやりと霞んで見える。
自分の目線の高さへと視線を戻すと、紅と黄金色のネクタイの間に、緑と銀色…スリザリン生のネクタイが視界の角にちらついた。
そういえば今日は、スリザリンとの合同授業だったっけ…とルイはぼんやり考えた。

「ルイ、早く座らないと席がなくなっちゃうわ。」

急かすリリーに曖昧に頷くと、ルイは最寄りの席へと足を運んだ。
ジェームズはいつもの如くリリーの後ろを陣取り、その両隣にはシリウス。
ピーターとリーマスはルイ達の座る席の前に腰を下ろした。リーマスとルイの距離は、相変わらず遠かった。

ふとルイの目に、それまで隣の友達とお喋りしていた女子生徒が、隣に座ったリーマスに目を丸くし、慌ててシャキンと背を伸ばし、何ら変わりなく見える髪をこれまた熱心にとかし始めたのが見えた。
そんなにしなくても可愛いのに…彼女のフワフワした暖か味のある茶色の髪を見て、ルイは自分の飾り気の無い髪と比べ不思議に思う。
見間違いの無いほどに、彼女の耳は段々と充血して来ていた。

「……??…」

何だか妙な気分がして、ルイは思わず眉を潜める。
女子生徒の間で確かに人気のある彼等ではあるが、自分の知っている彼は、彼女達の話す彼とは大分違う事に今更ながら気付いた。

『頭が良くて、要領も良くて、
誰にでも優しい』

…そうは、思えない。
自分の知っている彼は、頭は確かに良いが時々抜けている。
ルイやピーターだって間違えない様な簡単なミスをやったり、出来なかったりする。
彼は皆が言うほど優しくはない。
事実、ルイは何度もリーマスからからかわれた事があった。
確かに優しいけれど、やはり彼も悪戯好きのトラブル好き。立派に悪戯仕掛人の名を語るには充分だった。






「では、隣の人とペアになって実習を開始して下さい。」

『魔法薬学』の先生の声に、たちまち教室中が騒々しくなった。
ガチャガチャと器材を取り出す音。
誰が誰とペアになるかを話し合う声。
当然ルイも立ち上がり、リリーの元へと近寄った。
しかし何やらリリーとジェームズが揉めていた。

「…ど、どうしたの??」
「いつもの事だよ。
ジェームズだって自分が『リリーとペアじゃなきゃ嫌だ』とか言い出すから、面倒な事になるってわかってるっつのに…」

シリウスは苛々した様子で頭を掻いた。
ルイはあぁ…と納得した。
どうやらリリーの後頭部ウォッチングでは飽きたらなくなって来た様だ。

おしまいには毎度の事ながら、リリーについての演説を朗々と語り始めたジェームズにリリーがついに折れ、ペア志願を承諾した。
リリーもリリーで、何だかんだで彼に甘いのだ。
ルイはシリウスとペアを組んだ。
視線を前へと戻すと、先程の女子生徒はリーマスとペアになっていた。
彼女はピーターを友達に押し付ける事に成功したらしく、嬉しさのあまり頬を薔薇色に染めていた。
こちらからは、リーマスの顔は見えなかった。

何だか胸がモヤモヤした。
胃にズッシリ来る様な油っぽいものを食べた時の感じに似ている気がした。
充満している煙の所為だろうか。
女子生徒が頑張ってリーマスに話し掛けている。
しかしリーマスはあまり興味がない様であまり的確な答えをしてはいなかったが、いつもの他人用の張り付けた笑みは崩さなかった。
そんなどうでも良い事に…ホッとしている自分が居る。
ルイは自分が恥ずかしく思えた。
他人と他人との間にでしゃばってしまっている様な、そんな気がした。

「……い、…おい、ルイ!!」
「はいッ!!?」

沈み込んだ思考からルイを引き戻したのは、同時に丸めた羊皮紙でルイをポカッと軽く叩いたシリウスの声だった。

「はいじゃねぇ。実習始めるぜ。
俺が材料切ってやるから、お前調合しろよ。」
「…あ、う、うん…」

ルイは前の席をチラチラと見ながら適当に頷いた。
シリウスから思いきり眉を潜められたが、ルイはそれ所ではなかった。

女子生徒とリーマスは手際良く作業を進めていた。
時折言葉を掛けたり掛けられたりの雰囲気で、けれどルイの胸に未だ佇むモヤモヤはいつまでたっても消える気配を見せなかった。

何、なのだろう。これは。
ルイは無意識に、眉根に皺を寄せる。
この、胸の底がチリチリと、焦げ付いた様な焦燥感は。







[次へ#]
[*前へ]



[戻る]
[TOPへ]
bkm





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -