happy days | ナノ


□happy days 35
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『良いですか、皆さん。
Ms.ホワティエには、彼女がPTSDもとい解離性同一性障害になっていた事を秘密にしておいて下さい。』

ルイが戻った日の夜、リーマス達はマクゴナガル先生に呼び出されそう言われた。
彼女の言葉には、有無を言わせない圧力がひしひしと感じられた。

『ルーピン、貴方が起こした事も口外してはいけません。何事もなかったかの様に、貴方達は今まで通り生活すれば良いのです。

…今、Ms.ホワティエに必要なのは、貴方達からの同情や謝罪の言葉ではありません。
限界を感じ始めていた彼女の精神を癒す為の、時間です。』



マクゴナガル先生の言葉は、決して外れていたワケではない。寧ろ的確だった。
これ以上、彼女に何かを背負わせてはいけないのだ。あの時リーマスはそう決意した。

だから今は多少辛くとも。
今の彼女のバランスを保つのが先決だった。

「…本当に、普通だったんだって。
おかしい事もしてなかったしさ。
だから…そんなに気味悪がる事無いよ。」
「ッリーマスッ…」
大丈夫、だから。

彼女の抗議の声を遮る様に呟く。
ルイは直も渋っていたが、聞いても無駄だと思ったのか黙り込んだ。
胸中では謝罪を繰り返しながら、リーマスは食事を再開した。

ただ、気になってしまっただけ。
だからただ、聞いてしまっただけ。
然し、二人の間に流れる空気には、どこか気まずい感じが拭えなかった。









「次の授業何だっけ??」
「聞いて驚けよ。
腐れスリザリンとの合同授業だ。」

『しかも『魔法薬学』のな。』と言いながら、シリウスはフンと鼻を鳴らし顔をしかめた。
いつもならば、ここでリーマスの苦笑かルイの仲裁が入るはずなのだが…

「………。」
「………。」
「……あ、れれ…??」
「…ど、どうしたの??ルイ…」

ジェームズとリリーの声に、ほぼ同じ位のタイミングで二人はうつ向かせていた顔を上げたが、互いな顔を見た瞬間、出かかった声が萎み、また黙り込んでしまった。
他の4人は困惑するばかりだ。

『…ちょ、何があったのよ??!』
『お、俺が知るかよ!!』
『二人共、朝は普通だったよね…??』
『ま、まさか喧嘩したとか…??』
『まさか!!あのルイとリーマスが!!?』
『リーマスが感情的な喧嘩に走るとは思えねぇよ…
ルイもきっと、どう謝って良いか分からないんだけだと思うぜ。
…どちらにしろしばらくはこのままだろ…』
『…すぐ仲直り出来れば良いんだけど…』

リリーは心配げにそう呟き、どこかよそよそしい感じの二人を見た。






怒らせて、しまった。
或いは気を悪くさせたのだろうか。
どちらにしろルイは気が重かった。
元々遅い自分の足取りは更に遅かった。

気になって仕方なかった。
…怖くて、仕方なかった。

チャリ…と音を立ててポケットから取り出されたのは、シリウスからもらった銀時計だ。

この時計をもらった時辺りからの記憶。
それは不可解な靄がかっている。
何だか酷く寒かった気も、腕にたくさん本の山を持っていた様な気もする。

けれどそれよりももっと深い何かを思いだそうとすれば、頭痛の様に意識がフッと見境なく遠のいて行く。

『大丈夫、だから。』

叱りつける様な声音で呟いた彼の言葉。
これ以上聞くなという忠告と共に、密かに裏側に込められていたのは。

思い出したくない記憶を呼び覚ますのを恐れるかの様な、苦しげな懇願。

「……大丈夫か??」

急に頭上から降って来た声に驚いて顔を上げると、いつの間にかシリウスが隣に居た。
ジェームズ達は大分向こうに居る。

どうやらジェームズをリリーに押し付けて来てくれた様だった。
突然の事に呆然としているルイに、彼は眉の間をキュッと寄せてもう一度聞いて来た。

「…リーマスと、何か…あったのか??」

ルイは…
答える事が出来なかった。
相談しても良い事では決してないと、不安がざわざわと胸の中で騒いだ。

シリウスの事だ。
きっと聞いたが早いか、即座にリーマスが悪いと決めつけるに違いなかった。
二人のそんな所はミタクナイ…というか。

見た、気がする。

彼の怒鳴り声も、
彼の反論の声も、
体が、覚えている気がしたのだ。

「…ッ何、でも…ないよ…大丈夫…」

ルイは無理矢理に笑った。
いぶかしむ様なシリウスの視線は、相も変わらず突き刺さっていたが、無視する他仕方なかった。

彼には迷惑をかけたくない??
何故??

もう、傷付きたくないから。







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