happy days | ナノ


□happy days 35
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雪にうもれたハロウィンも過ぎ──…
ホグワーツはもう、冬に包まれていた。



廊下に出れば、自分のマフラーを可能な限りに首に巻き付け、寒そうに体をこわばらせながら足早に歩いて行く生徒がほとんどだった。
窓から見える中庭には、当然とでも言うのか、地面や草花に霜が降りていた。



「そういや気になってたんだけどさ、
お前、良くあそこまでタイミング良く薬の効果切れたもんだよなぁ。」
「あぁ、うん、だって元から薬なんて飲んでないし☆
「……ハァ!!!?」

シリウスはネクタイを取り落とした。
後ろで眼鏡を拭いていたジェームズは、にっこりしながら言葉を続ける。

「だから、元から飲んでないんだって。」
「だ、だッ、だってお前、リリーからもらったジュース飲んじまったんだろ!!!?」
「あぁ、それね…」

ジェームズはローブのポケットをゴソゴソまさぐる。

パンパカパーンッ!!!
ジェームズ特製解毒薬──ッ!!!」

そう叫んだ彼の手には、小さな小瓶。
シリウスは呆然として口をポカンと開けた。

「ホラ、僕って人気者だから、結構僕を妬んで毒とか盛っちゃう奴も居るんだよねたまに。
そいつ等対策に、いつもジュースとかにはこれ入れてから飲んでたんだよね、実は☆
この歳で毒殺は嫌だしねー(笑)」
「…じゃあ、正気だったのかよ!!?」
「楽しかったなーぁ☆
ちょっと態度変えるだけでみぃんなうろたえたりパニックしたりしてたし☆」
「…ちょっと待て。
要するに、お前はリリーから毒盛られた日からは一応正気だったワケだな??」
「うん☆」
「……て事は…俺を公衆の面前で殴った時も正気だったってワケかオイイィィ??!」
「あは☆ホラホラ人類皆兄弟☆」
「テメェが言うな!!!(怒」

相当あれは堪えていたのか、シリウスのお怒りは半端なかった。

「……ところで…リーマスは??」
「あぁ、先に大広間行っちゃったけど??」
「マジかよ!!!てか早すぎだろ!!」

時計を見れば7時前。
ピーターなどまだベッドの中だ。
ジェームズは苦笑してシリウスを見た。

「…大広間には居るからさ。」
「??誰がだよ。」

怪訝そうな顔をしたシリウスに、ジェームズは苦笑する。

「起きたての眠り姫が。」







息を切らしながら、冷たい風を切る。
すれ違う生徒からは一体何事かと、驚いて自分を振り返る生徒も居た。
心臓は色んな意味で跳ねていた。
リーマスは大広間に駆け込む様に入った。

忽ちに、自分を包む喧騒。
椅子を並べてひしめき合う生徒達を掻き分ける様にして進み、彼女を見つけた。

サラダのレタスを今正に口に入れようとしていた彼女はリーマスがこちらに来ている事に気付くと、食べるのをやめ笑いかけてきた。



「おはよう、リーマス。」
「…ッおはよう、ルイッ…」



久々に口にするその名前に、何だか声が上擦ってしまった感じがする。
ルイは彼の急ぎ様にクスクスと笑った。
その笑顔に、胸はまた高鳴りを覚えた。

彼女が解離性人格から主人格へと戻ってから3日目の朝。毎度の事ながら、現金な人間だと常々思う。
けれど、やはりどうしても恋情というのは自分の気質とは反対に、いつもせわしなく動き回っては一喜一憂しているのだと気付いたのは、ごく最近だった。

朝起きれば、変わらない日常。
大広間に急げば、変わらない笑み。
変わらない…彼女との関係。
それが今は、酷く大切だった。
一度壊れてしまったのかと思った分、その硝子玉の様な存在が余計に愛しかった。

平和な日常を。
穏やかな関係を。
保てて良かったと、思えた。

「…ス、……ッリーマス!!」
「ッはい!!?」

思わず声を張り上げれば、目の前には不服そうなルイのムゥ、という唸り声。
慌てて笑みを浮かべたものの、彼女の機嫌はすぐには治らなかった。

「ご、ごめん、何か用??」
「…話してくれないの??」
「…??何を…」
「ここ最近の私の事。
私がどうして3週間近くの記憶を覚えてないのかって事よ。昨日も結局リリーにもシリウスにもはぐらかされたし…」

ルイはそこまで言うと、ふいに不安げな顔をした。リーマスの胸がズキリと痛んだ。

「…怖いんだよ…結構??
自分が5日前何を食べたかとか。
自分が1週間前何の本読んだかとか。
…何にも、覚えてないんだから…」

自分で言って恐怖を覚えたのだろうか。
ルイの体は微かに震えている。
言ってしまえたら、どんなに良いんだろう。
安心させる事が出来たのなら、と。
…けれど、リーマスは拳を握る。
これは、言ってはいけない事なのだ。







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