happy days | ナノ


□happy days 30-A
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目の前に横たわっていたのは。
今まで見た事もない漆黒。



ガタガタと揺れる車内。
窓の外を、風景が飛ぶ様に過ぎて行く。
程良く涼しい気温で、体調は良い。
ただ1つ───…
同年代と思われる、眼鏡とヘタレそうな男の子二人から追い回されていなければだが。

「あんな二人と一緒に居たんじゃ、目立ってしょうがないよ…」

ポツリと、思わず言葉が零れる。
彼等の顔が人並なら考えたが、何故か二人共揃いに揃って整った顔立ちをしていた。
出来るだけ目立たない様にすると、ダンブルドアと約束したのに…

一応今着ているのは制服だが、不幸にもトランクは自分が居たコンパートメントに置きっぱなし。
今戻れば必ず彼等に捕まってしまう。
自分を匿ってくれるコンパートメントを探して、1つのコンパートメントの扉を開けた。

ガラリと音がして、目に飛込んで来る色彩を、何とか受け止めて。

目に入ったのは…






「…何か用か。」

低く唸る様なその声に、自分が放心していた事を悟り、自分と彼女以外に誰かがこのコンパートメントに居た事に、初めて気が付いた。

声がした方を見やれば、土気色の顔をした油ぎった髪の男の子が、眉間に思いっきり皺を寄せて、こっちを睨んでいた。
手にはビッシリと文字が書き込まれた、見るからに難しそうな本を携えている。

「…ッあー…えーと…」

思わず言葉を濁した。
女の子に見とれていたのを見られたからか、顔が熱い。しかも、彼の目の前で。
次の言葉を探しているうちに、眠たそうな唸り声と共に、漆黒がムズムズと身動きし、唐突にムクリと起き上がった。

密度の濃い睫毛の下から覗いたのは、キラキラと光に反射する褐色の瞳。
ふっくらとした桜色の唇は、意識がはっきりしないのか、少し開いたままだ。

「…セブルス…??…」

抑え目の可愛らしい声が鼓膜を震わせた。
自分を刺す様に睨んでいた男の子の視線が一変し、彼女を酷く優しい眼差しで見る。

「…もうそろそろ着くらしい。
起きておいた方がいいぞ。」
「…ん…??」

彼女はコクンと頷き、まだ眠気の覚めきらない目で、視界をしばらくさ迷わせていたが、扉の前で突っ立っている自分を見た。
二つの褐色に、自分の姿が映る。
彼女はしばらく自分を注視していたが、やがて目を見開き、頬を紅潮させた。
寝起きを見られたのが恥ずかしかったのだろう。
その変化に、たまらない幸せを感じた。

「あ…ごめんね、びっくりした??
ちょっとここに居させてもらいたいんだけど…」

隣の男の子が明らかにビクッと震えた。
チラリと視界の隅を見れば、彼が苦虫を噛み潰した様な顔をしていたのが見えた。
内心ざまぁみろ、と思ってしまった。
こうなる事を大体予想して、敢えて彼女に聞いたのだけど。

人柄とは顔に出るものらしい。
彼女は快く頷いてくれた。
目の前の彼に当て付けがましく、彼女の隣に腰を下ろしてみた。

「僕はリーマス・ルーピン。君は??」
「ルイよ。よろしくね、リーマス。」



彼女の顔に出来たのと同じ位、影が薄くて、今にも溶けてなくなってしまいそうな。
そんな、笑顔だったけれど。

あの時確かに、僕のベクトルは。
彼女を中心に、円を描いてたんだ。



僕が君に言うべき言葉を
君は 望んでいるのだろうか













「…あ…」

眠気に満ちていた意識が急にハッキリした。
漆黒はくるりと振り返り、その褐色で自分を見つめて来た。
ゴクリと生唾を飲み込んで、で無意識の内に深呼吸し、ゆっくりと口を開く。

「…お、おはよう…
──ッレイ。」

彼女を呼ぶにしては、余りに不自然な名前。
しかし彼女は頭をペコリと下げて来た。
その反応に、本当に彼女はルイではないのだと、今更ながらに思ってしまった。

主人格であるルイは今、眠っている。
代わりに現れた解離性人格をレイと呼ぼうとジェームズに言われたのは、つい最近。
体はルイなのにと、最初はかなり間違えたものだ。
それはシリウスも同じ様で、すぐに順応したピーターに比べたら、二人の間違いは相当な回数に及んでいた。
しかし今目の前にいるレイという人格を認められそうになかった。







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