happy days | ナノ


□happy days 29
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あの漆黒に目を奪われたのは

ある意味 運命だったのかもしれない






「リリー、朝よ!!
早く起きて着替えた方が良いわ!!」

毎朝降って来る高めの声に、少しばかり抗議の意がこもった唸り声を上げながらも、眠気という接着剤でくっつけられていた瞼を渋々上げる。
ぼやけている視界のピントを何とか合わせると、目の前にあった茶色の瞳が三日月型に細められた。

「…おはよ、ミル。」
「おはよう。もーリリーったら…
昨日帰って来たと思ったら爆睡してるんだもの。
課題はいいのかしらって不安だったのよ??」

リリーのルームメイトのミル・スチュアートは、ショートヘアーの頭をかしげた。
サラリと音を立てた黒髪は、日の光に透かされて仄かに茶けている。

「…ミル、また髪が傷んでるわ。」
「えぇ!!?もおおおまたああ!!?」

リリーは何気無く言ったつもりだったが、本人は驚きの声を上げ、慌てて髪の毛を摘み、太陽の光に透かした。

彼女…ミルの母親は娘の素行やら何やらに大変厳しく、彼女の黒髪が少しでも茶けたり乱れたりしていると、それこそ烈火の如く怒り出す人なのだ。
本人はそれなりに気を付けているつもりだが如何せん、年頃の女の子の髪は傷みやすい。
一年生の時に、目を盗んで伸ばしっ放しにしていた彼女に対し、『吼えメール』を送り付けて来た日の事は、未だに忘れられない。
自分の肉眼でリリーの言葉をしっかりと確認したミルは小さくため息をつき、『今度の休暇で髪染め買わなくちゃ…』とぶつぶつ呟いていた。
同じ位のタイミングで、ガチャリと部屋のドアが開き、誰かがリリー達のいる部屋に入って来た。

ヒョロリと背が高く、しかしバランスの整った体。
ミルとは違い、人工的に染め上げられたのが一目で分かる蜂蜜色の短い髪。
どうやら髪の毛はまだ眠たそうで、あちこちに自分勝手に飛び跳ねている。
スッと線が引かれたかの様な、キリリとつり上がった眉の下には、髪の毛よりも幾等か濃いハニーブラウンの瞳が2つ。
その眼にリリーが映り、彼女は柔らかく笑む。

「おはよーさん、リリー。」
「おはよう、セーラ。」

リリーは笑って答えた。
相変わらず、微笑めば周りの女子がキャーキャー言いそうな男前な笑顔だと思った。

「また女の子から呼び出し??」
「『友達で良いから付き合って下さい』だって。
別に友達じゃなくても話出来るのに、変な奴。」
「女の子は特別扱いが大好きだって事よ。
特にグリフィンドールのセーラ・アンドリューからの、なんて札付きなら誰だってね。」

口を尖らせて不服そうに言ったセーラに、面白がって聞いたミルと一緒に、クスクス笑いながら教えてあげた。
(本人からしてみれば)不思議な事に、セーラは(失礼だが)そこら辺の男子生徒よりよっぽど人気がある。
しかも、同性であるはずの女の子に、だ。
勿論、彼女が呼び出されるのは人気のない朝の時間だけではない。
リリーの記憶では、週に3回は呼び出されている気がする。

「どーしてこんなに人気あるのかしらねぇ??
皆こいつの本性を知らないからかしら。」

ミルはそう言って愛用の櫛を持ち、セーラに向かって手招きした。
セーラはにっこりしてベッドに腰掛けているミルの前に座り、その蜂蜜色をミルの足にもたせかけた。
ミルは彼女の髪を櫛で綺麗に梳かして行く。
さすがは彼女御用達と言った所か、セーラの寝癖はまるで嘘の様に大人しくなった。

「こうやって誰かが毎朝梳かしてやんないと、髪の毛の事なんて全然気にしない奴のどこが良いんだか。」
「アタシの頭の中にはクィディッチの事しか入ってないよ。」
「自慢出来る事じゃない。」

リリーは思わずクスリと笑った。
小柄で大人しげなミルが、見た目はまるで男の子の様なセーラの髪を梳いてやっている光景と言うのは、何度見てもやはり未だに馴染めない。

パッと見は気弱そうに見えるが、ミルはこれでもリリーよりも気が強く、頑固で世話焼き屋だ。
反対に、しっかりしていてリーダータイプの様に見えるセーラは実は酷くずぼらで、クィディッチの事しか頭にない。
一緒の部屋で生活している内に、セーラのあまりの生活態度にミルがぶち切れたのは、一年の最初の頃だ。
然し、少しせっかち過ぎるミルを、セーラが持ち前の大らかさで宥めてあげているのも事実。
この二人が上手くやっていけているのは、きっとお互いがお互いのマイナス面を補っているからなのだろう。

「…そういえばリリー。ルイの調子はどう??
もうそろそろ退院出来るんでしょ??」
「え、」

思考にのめり込んでいた所為か、不意にミルから話題を振られたリリーは思わず間抜けな声を出した。
続けてセーラも、目に心配気な光を灯して言葉を引き継ぐ。

「ほら、そろそろ一緒の部屋で寝る人数が3人っていうのも寂しくなって来たしさ…」
「それに、やっぱりルイがいないとつまらないし、リリーも何か元気無いし…ね。」

周りからは、自分達の部屋を仕切っているのは、リリーもしくはセーラだと言われている。しかし、どっちも見当違いだとリリーは思った。
この部屋の中で一番世話焼きなのは、そして4人の中で一番責任感が強く、皆の事を一番考えてくれているのは、目の前にいるミルなのだ。
ミルもセーラも、ルイが医務室に運び込まれたと知った時、『ルイに会わせて下さい』と何度も何度もマクゴナガル先生に頼み込んでいた。
3人でこの4人部屋を使う事に関して、一番違和感を感じずにいられなかったのもこの2人だった。

皆、ルイの事を心配してくれている。
リリーはそれだけで、胸の中が温まるのを感じた。

「まぁ、ルイはいつも引っ込み思案な癖に妙に根性だけはあるし。
そう簡単にバテたりはしないってわかってるんだけどねー。」

セーラはネクタイを一人で締めようとしながら言った。が、中々綺麗に結べない。
ミルは最初見ているだけだったが、仕舞いには団子結びになってしまったネクタイを恨めしげに見つめ始めたセーラを見て再び溜め息をつき、また彼女を自分の手の届く高さまで座らせ、あっという間に結び目を解いてネクタイを綺麗に結んでしまった。

「今度ルイに言っておいてくれない??
誰もいないベッドも中々不気味に思える、って。」

リリーは微笑んで、『えぇ』と答えた。
自分とルイはいいルームメイトに恵まれていると思った。









「…ところでリリー。
急がなくていいの??朝食終わっちゃうよ??」



リリーはミルの言葉で、自分がまだ髪はおろか、着ている服さえもまだ寝巻きのままだということにやっと気付いた。







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