「…」
「…」
「……ねぇ。」
「
(びくぅ!!)ハイィィ!!!?」
「…緊張しなくても良いわよ。」
「あ…う、うん…」
びびらせんじゃねぇよ!!!
と、その廊下に居たホグワーツ生全員が叫んだ。
…と言っても、心の中でだが。
リリーは呆れたのか、ハァとため息をつく。
いつものポーカーフェイスはどこへやら、リーマスはリリーの表情を見てビクビクしていた。
「…なぁ、我が友よ。
俺はかつてあんなにビクビクしたリーマスを見た事があったか??あるわけねぇよ。」
「勝手に聞いて勝手に自己完結させないでよパッドフット。
それよりも君は思い出せるかい??
さっきのリリーのあのはにかんだ笑顔!!
とても数週間前まで僕に殴る蹴るの暴行を繰り返し、軽くトラウマになりそうな位の罵詈雑言を吐いてた彼女とはとても思えないよ!!!」
さっきからこのやりとりが何度続いただろう。そして何度乙女の様にキャーキャー騒ぐキモイジェームズを見ただろう。
シリウスは口を閉じた。
リリーとリーマスの話が終わるまで、しばらくはルイの事でも考えていようと思った。
「…あ、の」
「リーマス。
…私はね、怒っているの。」
気まずい沈黙を崩そうと必死に絞り出したリーマスの声は、リリーの真剣な声色に掻き消されてしまった。
顔を上げれば、目の前には真っ直ぐな光を灯したエメラルドグリーンが、自分を見据えていた。
「本当に信じたわ。
今でも、信じてるの。
あの言葉は、絶対に嘘じゃないって。」
…あの時。
リリーに聞かれて、すぐに答えた。
自分は、ルイが好きなのだ、と。
そして、
嘘ではないと、言い切れる自分も、いた。
「…私の、かいかぶりすぎだったのかもしれないけど。
私は、
貴方がああ言ってくれて、
『幸せ』だった。
ザリスとの件にも、気付けなくて、
すぐ隣で、すぐ近くで、
戦って、戦って、
傷付いて傷付いて、
それでも、笑っていた、ルイに、」
声が震え、潰れた。
「私は、気付いて、
あげられなかった。」
目の下にクマがあったのにも。
何日か、目の腫れがとれなかったのにも。
滅多にしない化粧品の香りにも。
『…何か、あったの??』
聞いた、瞬間。
今にも、泣いてしまいそうな顔にも。
私は、気付いて、あげられなかった。
「だから、嬉しかった。」
彼女が、周りに愛されている事が。
周りに必要とされている事が。
彼女が、周りを愛している事が。
周りを必要としている事が。
少しだけ、悲しかったし、悔しかった。
いつも伸ばせば手に届いた漆黒を、
彼等は、自分よりも知っているから。
人から向けられるベクトルに、真っ直ぐに向き合う事の出来る、
自分が甘やかしたくて甘やかしたくて仕方ない彼女を、
彼等は…別の方法で『幸せ』にする事が出来るから。
彼等のやる事は、決して自分には出来ない。
可哀想だからとか、哀れんだ目でしか見れない自分に、彼等の理想は高すぎるから。
守れない。
理解が出来ない。
慰める事も、励ます事も、出来ない。
抱き締める事が、出来ない。
そんな自分が、大嫌いで。
そんな自分が、不必要に思えて。
だか、ら。
あの時、さしのべられた手に。
優しく笑いかけてくれた彼に。
すがりついて、泣きわめいた。
守ってあげられなかった。
気付いてあげられなかった。
近くに居たのに。傍に居たのに。
守りたいと願ったものが。
ズタズタに、傷つけられて居たのに。
嗚呼、と、嘆いた。
私は結局何をしても、
ただ無力な存在なのだと。
けれど、
『リリーは、強いよ。』
彼は、優しくそう言った。
いつもなら、自分から飛び込むなんて出来やしない彼の胸は、とても、とても、温かくて。
『人を信じて、裏切られても、
君はずっと、信じている。
どんな事があっても、信じている。
傷付くのを恐れずに。
真っ直ぐに進んで行く。
僕が言うのも偏見かもしれないけどね。
リリー。
君は、強いよ。
何よりも。誰よりも。』
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