happy days | ナノ


□happy days 28
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「…でね、僕、考えたんだけど…」

リーマスがそう言った直後だった。
大広間の扉が開き、ジェームズ達より遅く起きたホグワーツ生達が、まだ眠い目を擦りながら雪崩の様に大広間に入って来た。

その流れの中で一際目を引く赤い色。
グリフィンドール生のみならず、他寮の生徒とも挨拶を交わしながら、段々とこっちへと近付いてくる。
彼女に後ろを通られた数人の男子生徒が、思わず振り返り彼女を見た。
ジェームズは慌てて、真っ直ぐになるはずもないクシャクシャの髪の毛をなでつけた。

彼女がふと、ジェームズへと目線を向ける。
『やぁ』とにこやかに、ジェームズは言った。
いつもならばそれで終わってしまうやりとり。
けれど、今日は違った。









「…おはよう、ジェームズ。」









シリウスは思わずウィンナーをポトリと落とした。
彼女とは余り仲が良くないからか、シリウスは唖然としている。
偶然それを見てしまった何人かの生徒も、一体どうしてしまったのかと固まっている。



有り得ない。
ていうかもしや世界の破滅か。
天変地異の前触れだろうか。

あのリリー・エヴァンスが。
あのジェームズ・ポッターに。

あの優等生のリリー・エヴァンスが。
あの悪戯常習犯のジェームズ・ポッターに。

にこやかに、挨拶した。
ていうか、はにかんだ。






「(有り得ねェエエエエ!!!)」



この時初めて、ホグワーツ生が一致団結した。

「…み、」

ジェームズは震えながら振り返る。
しかし彼の震えは恐怖ではない。
あれは…






見ッッたかいパッドフット!!!
リリーが!!!あのリリーが!!
僕に笑いかけてくれちゃったりしたよ!!
ていうかはにかんじゃったりしたよ!!!
ああ神よ!!貴方に心から感謝しますううう!!!」

…歓喜の震えだ。
リーマスは気が遠くなった。
とうとうリリーまでおかしくなったのか??
しかし彼女は至って普通だ。
どちらかというとジェームズの方がヤバイ。
テンションが上がりすぎて少し気持ち悪い。

夢かもしれないと思い、頬を思いっきり力を込めてつねってみた。
しかし、自分のどちらかというと青白い頬はジンジンと痛んだ。痛かったし、そして夢ではない事に気がめいった。








パチリと、目を開ける。
眼下に広がるのは、複雑な幾何学模様が施された乳白色の天井。
警戒心を最大にして、シーツと自分の髪が擦れる音にさえも過敏な反応を示しながらも、ゆっくりゆっくり、起き上がる。
ベッドの周りには、白い無機質な衝立が張り巡らされる様に立てられていた。

チチチ、と甲高い声で鳴きながら、唯一外界に面している枕越しの窓の桟に、一羽の空色の鳥が止まった。
先端に向かって桃色へと美しいグラデーションを造り出している尾羽をたえずピコピコ動かしながら、その小鳥は小首を傾げる。
まるで今にも噴き出して来そうな、生きる事への煌めきを閉じ込めた瞳に、吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚える。
ふ、と頬の筋肉を緩めた。
急な運動に神経を傷付けない様、そろそろと腕を持ち上げ、小鳥へと手を伸ばしてみる。

しかし小鳥は、チチッと甲高い声でまた鳴くのと同時に、透き通る様な青色の羽をはためかせると、そこだけ切り取られたかの様な、小鳥の羽に比べれば幾等かくすんだ青色の中へ飛び去ってしまった。

すぐに、小鳥が去った方向へと手を伸ばすが、やがてゆっくりと、伸ばした腕を戻す。
その代わり、不思議な光を帯びた褐色で、少女は小鳥が消えて行った虚空を見つめた。
微かに、微かに。
小鳥は小さな点となり、遥か彼方へと遠のいて行く。

そう。
もっと、羽ばたけ。
少女はスルリと衣擦れの音を立てながら、細い腕を蒼穹へとさしのべた。
もっと、もっともっと遠くに。
自分の汚い手が届かない所へ。
その綺麗な羽で、羽ばたいて行け。



もっと、羽ばたけ。

もっと、もっともっと遠くに。
この蒼の中、空と同化してしまう位に。

もっと、もっと、もっともっともっと。
鳥が持つ翼は、羽ばたく為にあるのだから。

もっと、もっと、もっともっともっと。
自由を目指す為に、翼は天を駆けるのだから。



「…ねぇ…ルイ。
私はいつまで、ここに居ればいい??







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bkm





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