施術室の扉が閉まった。
シリウスは泣き崩れた。
しばらくの間、悲鳴の様な声で泣き叫び、突然、悲しみに耐えきれずに気を失った。
わたしを、わすれないでください。
わたしを、けさないでください。
あなたのなかのわたしを、
なかったものに、しないでください。
《コレヨリ、記憶洗浄及ビ修正ヲ行イマス》
貴方が、私を見つけてくれるまで、
私は、待ち続けるから。
私を忘れないでくれた貴方を、
『オブリビエイト』
私は、ずっと、待ってるから。
はた、はたはた。
ジェームズの目から、涙が落ちた。
涙は下に敷いてある絨毯に落ちて、黒ずんだ染みとなって消えた。
ハシバミ色の目を見開いたまま、今しがたペンシーブから現実世界へ帰って来た彼は、リーマスが今まで見た事もない位に、憔悴していた。
「…辛い、記憶じゃったな。
他人が見るには、余りにも冷たい…」
ペンシーブをキャビネット棚に戻しながら、ダンブルドアが呟いた。彼の皺1つ1つに、悲しみが宿っている様だった。
そう、あれは余りにも、冷たかった。
あれは余りにも、重すぎた。
人として普通の人生を生きて行くには、
余りにも、残酷すぎた。
「…ルイ・ホワティエは良く、マダム・ポンフリーに精神安定剤を貰いに来ておった。
今はもう来なくなったが、今のメンバーに囲まれる以前は、まるで今にも消えてしまいそうな顔をした子じゃったよ。」
そう、だから記憶に残らなかった。
あんなにも存在感が薄い人間など、いるはずもないのに。
最初に気付くべきだったのだ。
毎日毎日、今にも消えてしまいそうな表情を浮かべて人混みの中にいた、彼女に。
ふと、忘れていた記憶が蘇る。
『リーマスは、自分が突然皆から忘れられちゃったら、どうする???』『え…』
『皆リーマスの事忘れちゃったら???』
『…うーん…まず、皆に自己紹介かな。
忘れられても、また覚えて貰えばいいし。』
『………………………………』
『………ルイ???
どうか、したの??
な、何か僕変な事言った??
ルイ、どうして、泣いてるの…????』
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