彼女の息遣いが荒くなる。
ドクン、ドクンと心臓が騒いでいる。
その後ろ姿に、あの少女の面影が重なる。
消えたくない。消されたくない。
小さな漆黒は、まるであの彼女そのもので。
消さないで
消えないで
忘れないで
捨てないで
自分が存在している事を拒否されるという事は、一体どんな気持ちなのだろう。
自分の中で荒れ狂う何かに押し負け、自分が自分でなくなってしまうという事は、一体どんな気持ちなのだろう。
笑い合ってくれる親友も、
良くしてくれる先輩も、
少し控え目に話しかけてくる後輩も、
自分を心配してくれる先生も、
自分が心から愛しいと想う人からも、
自分という存在を否定されるという事は。
きっと、とても、悲しい事。
とても、とても、苦しくて、辛い事。
リーマスの目尻から、涙が零れた。
消されてしまう虚しさを知る彼女達の何を分かっていたのだろうかと、自分が馬鹿らしくなった。
いつの間に、自分は『忘れる』側の人間になっていたのだろう。
いつの間に自分は、彼女達の不幸を軽視していたのだろう。
いや、不幸というべきではないのだ。
これは、悲しい定めなのだ。
そして、自分もそれを背負っている。
けれど、その定めに種類も軽重もない。
それはただ、悲しいままのもの。
あらがえるはずもない所も。
必ず涙を流してしまう所も。
全てが同じなのに、どこに優劣があるのだろう。
悲しい傷は、癒えるはずもないのに。
自分はそれを、無作法にもえぐり出してしまった。
同じ悲しみを抱えていた彼女を、
自分は、傷付けてしまった。
「…ルイッ……!!!」
「なまえで、よばないで。」
シリウスの必死の呼び掛けに、然しルイは冷たく返す。それはきっと、呼ばれたら、かえりたくなるから。
自分の悲しみに甘えて、誰かれ構わずにすがりついてしまうから。
シリウスは恥じる事もなく涙を頬に伝わせている。然し、ルイが振り返る事はない。
ルイの足が、施術室へと歩き出す。
シリウスは慌ててそれを追うが、再び男達に取り押さえられる。
「…ッれは…
おれは、ぜったいわすれない!!!!」
シリウスが突然、ルイの背中に叫んだ。
再度ルイは、足を留めた。
「ぜったいわすれてやるもんか!!!
ぜったいけしてやるもんか!!!
どこにいたって、なにしてたって、
おれはおまえを、
ぜったいにみつけだしてやる!!!」
忘れるなんて出来るわけがない。
記憶から消してしまうなんて有り得ない。
[次へ#]
[*前へ]
[
戻る]
[
TOPへ]