ハッと前を見た瞬間、向こうに見える彼女の後ろ姿に、目が釘付けになる。
周りにいた癒者達は、いつの間にか彼女を遠巻きにして、体をこわばらせている。
睨まれているワケでもなく、蔑まれているワケでもない、ただそこに佇む、彼女の背中。
シリウスは慌てて立ち上がり、彼女の方へ駆け寄ろうとした。
しかし、
「うごくな。」ゾクッ─────
甲高く透き通った、然しドスの利いたまがまがしい言葉に、リーマスとジェームズは肩を震わせた。
無論、シリウスはその声に耐えられるはずもなく、顔を蒼白にして直ぐ様立ち止まった。
わずか5歳にも満たない少女が放つ異様な恐怖に、そこに居た全員が、この静寂を拒否する事は不可能だと悟った。
「───…シリウス、ごめんね。」
動けずにいるシリウスに、ルイは口調をほんの少しだけ和らげて言った。
栄養不足で著しく体重が下がった体は小枝の様に細い。
背中の半分を覆っている漆黒の髪は生気が亡くダラリと垂れ下がり、潤いを無くしてボサボサになっている。
「────もう、だめなの。
たえられない、かかえ、きれない。
いたくて、かなしくて、つらくて、
たまんない、くらい、こわい、の。」
彼女の声が震えている。
その声に、先程の高圧的な冷たさは見受けられない。
「あいつが、にくらしくて、ゆるせない。
あたまの、なかで、だれかが、ゆうの…
にくめって。うらみつづけろって。
ちのはてまでもおいかけて。
そして、
コロセ、って。」
ルイの小さな手が、キュ、と音を立てる。
小さな肩は微かに震えている。
「こわ、い、の…
こわくて、こわ、くて、
ほんとに、そうするんじゃないかって。
ころしちゃうんじゃないかって。
いつか、
いつか、このてが、
パパたち、みたいに、
まっかに、
まっかに、
そまっちゃうんじゃないかって…!!」
最後の言葉が、くしゃ、と潰れた。
シリウスは動けなかった。
今すぐにでも、その肩を抱き締めたいのに。
この硝子の様な彼女を、大丈夫だと、慰めてやりたいのに。
「あたま、が、おかしくなる…!!
あのこえに、さからえなく、なる…!!
こわい、の…ッこわい、の…!!!
けされたくないよッ…きえたくないッ…!!!」
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