ドクン、ドクン、ドクン。
ドクン、ドクン、ドクン。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン──……
「ルイッッ!!!!」シリウスは喉が張り裂けんばかりに怒鳴った。
ピク、と、ルイの小さな肩が震えた。
シリウスはもう一度怒鳴ろうとしたが、大きく開けた口を、誰かの大きな手が塞いだ。
ムグ、とシリウスがうめく。
バタつかせた腕を、岩の様なゴツゴツした腕がへし折らんばかりに掴んで捻り上げた。
『イ゛…ッ!!』という短い悲鳴が聞こえた。
「シリウス!!!!」
彼の父親が、真っ青になった顔をブルブルと震わせて、カツカツと固い足音を立てて近付いて来る。
そしてそのまま、血管の浮いた右手を大きく振り上げる。
バチンッと痛々しいその音に、リーマスは思わず目をギュッと瞑った。目を開ければ、シリウスの頬は赤く充血していた。
「………ッツ!!!!」
涙で潤む目で、直もシリウスは彼を睨んだ。
シリウスが羽交い締めされ動けないのを知りながら、シリウスの父親は立て続けにシリウスの頬を往復で殴り飛ばした。
叩かれた反動で内頬が切れ、口の中に血の味が広がる。
しかしシリウスは、その灰色の目に浮かばせる感情を変えはしなかった。
「…この……ッ恥知らずめが…ッ!!!」
彼の父親は低い声で吐き捨てた。彼を殴った手はまだ、ブルブルと震えている。
「…他の家の揉め事に…子供が首を突っ込んで許されるとでも思っているのか…!!」
彼の言葉が、何かの箍を、外した。
殴られた痛みよりも、罵られた怒りよりも、
大きな、大きな何かが、溢れて来る。
「…………いやなことだけ……むりやりわすれさせて……まんぞくかよ………!??」
シリウスの声は震えていたが、言葉ははっきりと聞き取れた。後から追い掛けて来たルイの兄は、ハッと息を飲み足を止めた。
シリウスは眉間に深い皺を寄せ、憎悪の表情で自分の父親を睨みつけている。
「……………何…???」
「いやなことだけつごうよくわすれさせて、それでまんぞくかってきいてんだよ!!!」
シリウスの決死の怒鳴り声が白い壁に反響し、その余韻を伸びる廊下に残して行く。
「仕方ないだろう!!!
貴様はあの子が静かに狂って行くのを見たいとでも言うのか!!!!?」
「『仕方ない』???!どうしていつもそうやってりゆうをいうのをさけんだよ!!!
ルイがルイじゃなくなるんなら、おれはいっしょうアンタにはむかってやる!!!」
「黙れ!!!一族の面汚しが…!!!」
シリウスの父親の手が再び高く振り上げられる。しかし、その手がシリウスの頬を打つ事はなかった。
ルイの兄、マークの腕が、彼の腕にしがみついていたからだ。
「…!!!Mr.ホワティエ…!!!?」
「………ッやめて…あげてください…!!
彼の…シリウス君の言っている事は…、
間違ってなんかいない………!!!」
マークは顔を下げたままそう吐いた。シリウスの父親は渋ったが、やがて手を下ろした。
マークは頭を下げ、『失礼な事をしました』と呟き、シリウスを見た。
その目が今にも泣きそうな表情を浮かべているのに気付き、リーマスは目を反らした。
「……間違って…いるのは…」
愛しい妹を守る為に。
これ以上、苦しみが彼女を覆わない為に。
彼女が、自分の為に守ってくれた物を、
正面から、
打ち壊そうとしている、
「……僕…自身です………」
「シリウスを、はなして。」
静寂を破ったのは、酷く幼い声。
然し、そこに居た全員の背中に、ゾクリ、と冷たい悪寒が走った。
男達の腕が反射的にシリウスを離した。
シリウスはドサリ、という音と共に倒れた。
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