しかしルイの口から出てきたのは、
「うーん……
やっぱり
猫かな。」
だった。
シリウスはズンと胃が鉛の様に重くなった。
というか一瞬魂抜けかけた。
「な、ナンデDA…!!?」
「愛想なくても、やっぱり可愛いもの。」
あっさりと返された言葉に、軽く目眩を覚えた。
「…猫の自由さが好き。」
もう見えなくなった、さっきの猫が消えた辺りを見つめたまま、ルイは静かに言った。
「何にも縛られないで、何にも依存しないで。
自分の自由勝手気ままに生きる事なんて、
まず人間に出来ることじゃないでしょう??
素直に…生きてるっていうか。
人間は求めることしか出来ないけど、
猫は求める代わりに与えることが出来るから。」
「求める…って…何をだ??」
「…色んなもの。」
「色んな??」
首を傾げてオウム返しに聞いてくるシリウスに、ルイはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「孤独とか、悲哀とか、嬉しさとか…
人間が持つ色んなものを、
猫は、黙って受け止めてくれるもの。
悲しい時とか、苦しい時とか、人間は必ず、それを何も言わずに受け止めてくれる何かを求めるんだって、何かの本に書いてあったの。
…人ってね、死ぬ時にはボロボロなんだって。
人と人が関わり合う所為でつけられた傷が、
その命の周りにいっぱいついてるんだって。
だから、その傷を癒す為に、つけられた傷を治す為に、
少しだけ……ほんの少しだけ、永い眠りにつくんだって。
それは誰かにとっては辛いことかもしれないし、
悲しいことかもしれないけど、
…傷は、必ず人に痛みを与えてしまうから。
だから、そういう見えない傷は、
どんなことがあっても、癒さなければいけない。
だから神様はこの世界に、猫を作り出したんだって。」
「…そっか。」
シリウスはフワリと優しく笑いかけた。
その綺麗な笑みに、ルイは少し照れてしまった。
校舎の方で予鈴が鳴ったのが聞こえる。
「やべッ、授業始まるぞ!!」
シリウスは慌てて校舎へと駆けて行く。
ルイも後を追おうとして駆け出したが、ふと振り返り、オレンジ色の猫が消えた辺りをもう一度みつめる。
ルイの口が微かに動いた。リーマスの持っていた紐は、その呟きさえも聞き取っていた。
彼女はすぐにくるりと踵を返し、シリウスの後を追う。
リーマスの耳に、ルイの呟きが反響する。
「ごめんね、シンシア。」
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