「猫用のクッキー…あげたら良かった…」
「どうせまた会えるだろ??
今度で良いだろ。」
シリウスがそう答えたが、ルイは首を横に振ると、『すぐ戻るから』と言い、二匹の猫の後を追った。
「…ん……」
リーマスは目を開けた。
さ迷う視線は白い天井を捉える。
自分が医務室にいることを認識するのに数分を要した。どうやらあの後医務室に運び込まれた様だ。
顔を動かして時計を見ると、丁度1時間目が終わる時間だった。
体に障らぬようゆっくりと起き上がる。
大きな窓から見える空はとても蒼い。
幾分フラつく足で窓に歩み寄り、リーマスは外を見た。
誰かが…いた。
「ルイ…??
……と、シリウス??」
医務室から見える中庭の外れで、ルイが屈み込んで何かしているのが見えた。
その傍らにシリウスがいるのを見て、リーマスはモヤモヤした気持ちでいっぱいになった。
どうして自分が居ないときに限って、シリウスがルイと一緒にいるのだろう…。
そんな時、二人の影からピョン、と飛び出したのは…
「………猫??」
明るいオレンジ色の毛並みの猫は、何やら小麦色の何かを口に咥えて茂みへと入っていった。
どうやらルイは、猫に猫用クッキーでもあげたようだった。なんだ、と呆れる反面、何故かホッとしている自分に気付く。
向こうでは、ルイとシリウスが親しげに話している。リーマスは無意識のうちに、ローブのポケットを探っていた。
中から取り出したのは、長い長い紐のようなもの。
以前悪戯に使ったもので、呪文を唱えれば盗聴することが出来てしまうという優れものだ(しかしそれが後々、二代目悪戯仕掛人たちの常用する『伸び耳』のヒントになるとは、そのときのリーマスにも予想がつかなかった)。
リーマスは杖を振った。やがて紐から、ルイとシリウスの会話が聞こえ始めた。
「さっき答えなかったけどよ…
お前は犬と猫どっちが好きなんだ??」
唐突にそう聞かれ、ルイはキョトンとした。
「どうして??」
「いや、何となく…な。」
「変なシリウス。」
好きな奴の事だから、なんて口が裂けても言えない。
そんなシリウスの葛藤も知らず、ルイは一人クスクスと笑った。
「わ、笑うなよ!!」
「あはは…ごめん、ちゃんと考えるわ。」
ルイはそういうと、腕を組んで考え始めた。どうやらこんな質問をされた事はないようだった。
…何となく、犬好きであって欲しかった。
自分が犬派だから、という理由ではない。
前回のクィディッチで思った事だが、シリウスとルイの共通点はかなり少ない。酷く言えば皆無だ。
あの後散々悩んだが、結局は『同じ寮生』と『友達が恋人同士』という悲惨な結果になったのでやめた。慣れない事はするべきではない。
もしルイが犬好きだったら、自分と同じだ、と便乗出来る。何より普段からジェームズに『犬っぽい』と言われている所為かもしれない。
赤の他人に対しての警戒心の強さ、仲間に対しての人懐っこさ……確かに、頷けないとは言えないと自分でも思ってしまう。
いやしかし、犬の様に全てをひけらかすのは少し気が引ける。ちなみにホグワーツの森番であるハグリッドの番犬ファングは、やたらめったらにルイに懐いていた…嗚呼あの時はどれ程ファングを羨ましいと思ったことか!!…いや、それは今はどうでも良いから!!
頼むから犬派であってくれ!!シリウスは切にそう願った。
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