happy days | ナノ


□happy days 19
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「…じゃ、僕はここで退散するよ。
君もおちおちしてられないんじゃない??
もうそろそろ予鈴が鳴るよ。」

リーマスの言葉通り、その数秒後に予鈴が鳴った。
セブルスの土気色の顔はますます濃くなり、『それを何故早く言わないのだ馬鹿者!!』とリーマスを罵りながら廊下を駆けて行く。
リーマスは大きく息をついた。既に視界はボヤけていた。
気を失う寸前まで人と話していたなんてマダム・ポンフリーに知られたら、それこそ意識不明の重体にされてしまう。
リーマスは自分の運の良さに頭が下がった。

気付くと、眉間に皺が寄っていた。
リーマスは苦笑した。この頃ルイの話をする度に、自分は顔をしかめているような気がする。
最初に目で追っていた時は、ただその隣に立ちたかっただけだったはずなのに。
その綺麗な褐色の瞳に、自分を映してもらいたかっただけだったはずなのに。
どこまでも身勝手な自分にため息が出る。

自分の体を支えることさえままならないまま、リーマスは扉にもたれかかり荒い息をつく。
終わりのない嘔吐感と浮かされる熱。
中から物音がしないという事は、マダム・ポンフリーはどこかへ行ってしまったのだろう。
出来るだけ早く帰って来て欲しいと祈りながら、リーマスは夏の照り付ける太陽の熱のような気だるさの中、意識を柔らかく闇へと手放した。






一時間目の授業終了の鐘が鳴る。
ルイは『魔法史』の子守唄から一気に覚醒すると、いつもの様に黒板をすり抜けて帰ろうとしていたビンズ先生を引き留め、リーマスの事を聞いた。

「リーマス・J・ルーピンなら医務室で休んでいるという連絡がありましたよ、Ms.ホワティエ。」
「そうですか…」

一応自分の忠告は受け入れて貰えていた様だ。ルイはホッと安堵のため息をつくと、ビンズ先生にお礼を言い皆の所へ戻った。

「ビンズ先生、何て??」
「リーマス、ちゃんと医務室で休んでるって。」
「ああ良かった!!ど・っ・か・の・誰かさんと違って、リーマスは授業をサボったりする人じゃないって信じてたわ!!」
「それ遠回しに俺だって言ってんのか??」

シリウスは気分を害したのか、ムスッとした顔でリリーに聞いた。リリーはツンと澄ました顔で、もちろんよとでも言いたげだった。
ルイはクスクスと忍び笑いを漏らした。

すると、

ニャーン───

どこからか、猫の鳴き声が聞こえてきた。
ルイは不思議に思い、不意にガサガサ揺れだした中庭の茂みを見た。

出てきたのは言わずもがな、猫だった。
明るいオレンジ色の縞模様が白い毛の上を走っている。大きなつり上がった目は、太陽の所為か金色がやたらに目立った。

「まぁ!!可愛い猫!!」

猫に目がないリリーは即座に笑顔になった。
ルイの手を引っ張りその猫へと近付くと、人慣れしているのか、その猫はすぐに足元へすり寄って来た。

「…ッ可愛いー!!
ね、ルイ!!」

リリーはその猫に頬ずりしながらルイに聞いた。ジェームズは何だかリリーを取られた様な気がして、面白くない顔をしている。
ルイは何故か返事をするのに戸惑っていた。
代わりに聞いてもいないジェームズが答えた。

「えーまだ犬とか鳥の方が良いよ。
猫なんて自己中で気まぐれじゃないか。」
「構って欲しい時は擦り寄ってくるじゃない!!」
「そこが好きじゃないって言いたいんだよ。
シリウスだってそうだろ??!犬派だろ??!
どっちかっていうと犬の方が好きそうだし。」
「まぁ、猫は元々好きな方じゃねぇけど…」
「だろう!!?猫のどこが可愛いんだよ、リリー!!」

はたから聞いたら、ぶっちゃけ男のヒガミの何物でもないんですが…
シリウスも味方につけたことで声を大きく張り上げ始めたジェームズを見て、ピーターは一人そう思った。

「貴方には聞いてないわよ、ジェームズ!!
…でもすごく人慣れしてるわね…
もしかして他の寮生の猫かしら??」

ジェームズに向かって一吼えした(ジェームズは口を閉じた)リリーがそう呟いた。
と、急にその猫がくるりと踵を返し、向こうへと走って行ってしまった。

「あ!!!…あーあ、行っちゃった…」
「……??オイ…
あれ…ミセス・ノリスじゃねぇか??」
「えっ」

シリウスが猫の走って行った方を指差す。
皆はキョトンとして、シリウスの指差した方向を見つめた。
明るいオレンジ色の毛玉が、嬉しそうに黒い毛玉にすり寄っている。
黒い方はそっけなく尻尾を揺らしながら歩く。
その横を、まるで親兄弟を慕う様に、オレンジ色の毛玉がついていく…

「ミセス・ノリスに近付く猫なんて初めてみた!!」
「ミセス・ノリス、気位高そうだもんね。」
「アイツ犬より強いって噂あるぜ。」
「フィルチ夫人と言っても過言じゃないしね。」

ジェームズの冗談に皆が噴き出す。
散々笑った後に急にルイが『あッ!!』と声を上げた。
慌ててローブのポケットをまさぐり、何枚かのクッキーが入った袋を取り出した。






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