「……何が言いたい。」
セブルスはゆっくりとそう聞き返す。
「自分の大切な人が、
自分の嫌いな奴と話している所を見て。
…自分の一番大切な人が、自分の知らない所で。
自分の知らない奴と一緒に居ると知っていて、君は焦らないのかい。」
優しげな光を帯びた目はどこにもない。
二人の間にはただ、冷たい冬を知らせる風が吹き流れて行くだけだ。
「…僕とルイは、寮が違う。」
セブルスは言った。
「僕はスリザリン。
ルイはグリフィンドールだ。
それをどうこう言う気はないし、今更『組み分け帽子』の決定に文句を言う気もない。
寮に戻れば、ルイにはルイなりの生活があるし、僕にも僕なりの生活がある。
逆を言えば、僕にだってルイに知られたくない僕が居る。
ルイにだって、僕や貴様等に知られたくない事がある筈だ。
…それを強制して、ルイがそれを納得するとは、僕は到底考えられない。
けれど、会った時だけ。
僕はルイに干渉する。
干渉するという影響力を持つことが出来る。
…それだけで、僕は良いんだ。
たった少しの時間でも、
ルイの記憶に、
僕という存在を焼き付けることが出来るのなら、
それだけで良いんだ。」
それは、酷くプラトニックな恋だった。
恐らくそれは、自分が持つドロドロの感情よりも、酷く綺麗で、酷く純粋で。
きっと、一度縁が欠けてしまったら、そこからバラバラと崩れてしまう様な、とても傷付きやすいもの。
「あはは…君等ってさ、
本当…似てるよね。」
リーマスはふと微笑む。
そういう人間だからこそ。
傷付くのも、涙を流すのも承知で、
真っ向から人と向き合おうとしてくる。
傷付く時の痛みも恐れないままで、
真っ直ぐに、前だけを向いて。
…周りがこんな馬鹿な人間ばかりだから、
自分の本当の汚さを思い知らされてしまうのだけど。
表面は冷たく冷え切っているのに、
しかし内部では燃える様に熱い熱を持つ体。
どうして内部まで冷たくなってくれないのだろうと、少し苛立ちさえも覚える。
僕は臆病だから。
傷付くことを一番恐れて、
自分が傷付かない方法を、
いつも最優先で探している。
「…『決して誤ることのない者は、
何事もなさない者ばかりである』ってね。」
「……ロマン・ロランか。」
「当たり。流石スネイプ。」
シリウスやピーターに聞いても、恐らく首を捻るだけだろう、フランスの小説家の名言がフッと頭に浮かんで来た。
「悲しみたくないから、何もしない。
傷付きたくないから、歩いたりしない。
それが一番良い方法だって気付いたんだ。
自分を守る事しか考えていない僕にとって、
とても都合の良い言葉だと思わない??」
この言葉を聞いた途端、これでもう、くだらない不安に胸を悼ませなくても良いんだ、と思った。
正直本当に、気持ちが軽くなった。
例えそれが偽りの安らぎだとしても、
このどこまでも続く堂々巡りの虚無感を、
落ち着かせてくれるのなら、何でも良かった。
「…僕は、スリザリンに入るべきだったかもね。
ジェームズみたいに正しい言葉を見付けることも出来ない、
リリーみたいに間違いをはっきりと言えることも出来ない。
シリウスみたいに、どんな事があっても、
前を真っ直ぐ見つめる事すら…出来ない。
僕には、何1つ出来やしないんだから。」
僕はいつだってひねくれている。
ニコニコしながら相手を妬んで、
優しくしながら相手を嘲って、
いいようのない孤独だけをひけらかして。
それが何の得になるなんて考えずに。
だってこんなにも、
こんなにもどうしようもない位に、
一人の女の子を好きになった事なんて、
一度もなかったから。
「…ルーピン。」
セブルスは静かに呟いた。
それはまるで、リーマスが今に霞の様に、
消えてしまうとでも言いたげな声だった。
「…まあ、ルイを諦めるつもりはないけどね。
シリウスにも君にも、譲るつもりはさらさらないよ。
でもきっと、僕はいつか、
ルイを泣かせてしまうだろうから。
…僕は、
どうしようもない位の、
ただの臆病者なんだよ、セブルス。」
最後にリーマスはボソリとそう呟き、
「もう医務室なんだけど、どうする??」
表情を一変させた。
いつもの、他人用の柔らかな笑顔だ。
気付くともう医務室の前だった。
別に具合が悪いワケでもない。
どちらかというと…
「…貴様はそんなくだらない話を、
わざわざこの僕に聞かせる為に、
わざわざここまで僕を連れて来たのか??」
「これは大層なお礼の仕方だね。
折角悟りを開いてあげたのに。」
ニコニコしながらのリーマスの言葉は大概キツイ。
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