「(………あ。)」
パンをかじろうとして口を開けた時、ルイの視界に脂っこい黒髪が見えた。
セブルスだ。もう朝食を終えたのか、大広間から出ていくようである。
ルイは慌てて残りのパンを口に詰め込み、下に置いていた鞄を手に取った。
「あらルイ、もう行くの??」
驚いた様にリリーが聞いてきたが、ルイは片方の手で口を押さえて曖昧に頷き、開けっぱなしだった鞄の口をもう片方の手で押さえながら、飛ぶように大広間を去ってしまった。
「あ、ルイ!!マフラー忘れてるよ!!」
紅と黄金色のマフラーを振り回しながらリーマスが叫んだが、ルイの耳には届かなかった。
イギリスの冬は寒い。幾等10月でも、もうマフラーをしていない生徒なんて居ない。
「僕、ルイに届けて来る。」
「じゃあ私も行くわ。」
「リリーが行くなら僕も行くよ!!」
「全くルイったらそそっかしいんだから…
シリウス、ピーター、貴方達はどうするの??」
「(今さりげに僕無視された??)」「あー…俺は朝飯食ってから来る。
どうせ教室で合流すんだろ。」
「ぼ、僕も…」
「リリー!!僕はね…」
「じゃあまた後で会いましょう。
サボったりしたら承知しないわよ。」
「へーへー。」
「リリィィィイイイ!!(泣)」
「うっさいわよ馬鹿眼鏡!!」
「朝から元気だなオイ…」
「あ……ねえ、ピーター!!」
飛び付くジェームズとそれを振り払うリリーの後を追い、走りだそうとしていたリーマスが不意に立ち止まってピーターを呼ぶ。
何か他にあったのかと、その隣に居たシリウスは首を傾げた。
「何??」
リーマスの声は、
口の動きとは違って、
一足遅く聞こえてきた。
「シエナ・レダムって子、知らない??」
「…??う、うーん…
ごめん、分かんないや。」
ピーターは頭の後ろを掻きながら答えた。
「…そう。」
「……リーマス……??」
一瞬だけ冷たく、そして悲し気に聞こえたリーマスの声の違和感に、シリウスは眉を潜めた。
「ごめん、何でもないんだ。」
リーマスは薄く笑みを零し、『先に行ってるね』とだけ言葉を残して、手に持っているのと同じ色調のマフラーを風に翻しながら、大広間を出て行った。
「な、何だったんだろうね??」
「………」
シリウスは何も答えなかった。
「セブルス!!」
自分を呼んだその声に、今日見た懐かしい夢の所為だろうか、いつもより過剰に反応してしまった。
ルイは息を弾ませながら、その黒く長い髪を惜しげもなく風に揺らしながらセブルスに駆け寄って来ると息を整え、そして夢と同じ、暖かい笑顔を浮かべた。
寒い気温の所為か、それとも走って来たからだろうか、ルイの頬はほんのりと赤い。
不覚にも胸にキュンときてしまった。
「…何か用か??」
ぶっきらぼうな言葉しか出ないのかこの口は、と自分を呵責した。
しかし彼女はそんな言葉などどうでも良いのか、いや、自分がこういう人間だと知っているからなのか、別に気にしないという様な口ぶりで話し始めた。
「大した用事じゃないの。
…ただ、ホラ、もうすぐ…でしょ??
約束してたし、ちゃんとどこで会うかとか聞いておこうかなって思って…」
「………約束??」
セブルスはハトが豆鉄砲を喰らったかの様な顔をした。
ルイは睫毛の長い目をしばたかせ、キョトンとしている。
「え、だって…
約束した…よね??」
本人までが首を傾げた。
セブルスの脳が過去の記憶を超特急で遡る。
記憶の糸は更に前へ前へと巡って行く。
そしてセブルスは思い出した。
『一緒に…行かないか…??』
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