happy days | ナノ


□happy days 18
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ああ、永いことあやふやな信仰の人間だった私、

永いこと、世を白眼視し、人の運命を否定して来たが、


今日はじめて簡潔で、すべてにゆきわたる真実なるものに気が付いた。



────────ウィット・ホイットマン
『一切は真実である』より










朝から体調が頗る良くなかった。
満月の日が近付いているらしかった。

意識は時々一瞬だけ途切れる。体は熱を持った様に熱り、息はもう秋が終わろうとしているのに、生徒の誰よりも白い靄になった。
しかし、どうやら他のグリフィンドール生には『虚弱体質の優等生』として認識されているらしく、周りはあまり気にならない様だった。

というか、別のとある人に気を取られ過ぎているみたいだった。






「大体皆、クィディッチのルールを忘れてない??」

ジェームズが言う。

「ルール??」
「クィディッチはどうしたら終わるんだっけ??」
「シーカーがスニッチを取ったらでしょ??
幾等僕でもそれ位は知ってるよ。」
「ふーん…じゃあリーマスは僕がスニッチを取った所をちゃあんと観てたんだね??」
「………えーと…」
「ほおおらああああ!!やっぱり観ててくれなかったんじゃないかああああああ!!!」

ジェームズは子供の様に足をバタバタさせながらリーマスに喚き散らした。その声量は病み上がり(病みかけ?)のリーマスには辛いもので、痛みを帯る頭を押さえたリーマスの心に一瞬殺意が芽生えた。

「僕が必死にスリザリンを打ち負かしてスニッチを取ったのに、皆が皆口を揃えて『あれ、そうだったっけ??』なんて答えるんだよ!!?
いつもなら次の日は僕の華麗な活躍で話題が持ちきりの筈なのに、皆口を開けばシリウスシリウスって…おまけにちゃんと観てたのはアナウンスとマダム・フーチだけなんて、皆僕に何か恨みでもあるわけ!!?」

ジェームズに恨みのあるホグワーツの人間は居ないという方がおかしいだろう。
しかしそんな事を言ったら、今のジェームズの機嫌を損ねるのは必至だ。

「…リリーは…」

見ていたわけがない、と自己完結した。
クィディッチのことになるとつい熱くなってしまう彼女が、観客の目を集めたシリウスの活躍と、最早恒例のジェームズの活躍のどちらを見ていたのかは、火を見るより明らかだ。

ジェームズはむくれる所か既にしょんぼりモードになってしまい、しまいには体操座りをしてブツブツ何やら愚痴り始めた。
自分の体調を最悪にしておいて一人愚痴モードに入ってしまったジェームズに蹴りの1つや2つ入れてやろうかと考えていた時だった。

「おはようジェームズ、リーマス。」

噂の赤毛の優等生、リリー様のおでましだ。
そんなリリーの声を聞いたジェームズの顔は一瞬だけパッと華やいだが、対応を変えようと考えたのか、スッと視線を下げて『オハヨウ』とそっけなく言葉を返した。
分ッかりやす〜…とリーマスは呆れた。

「…リーマス、何だか顔色が悪いわ。大丈夫??」

リリーの後ろから来ていたルイが、急にリーマスの顔を覗き込んできた。
『いつものことだよ』と笑って誤魔化したが、ルイは眉間に皺を寄せて『そんなこと言っていつも医務室に行くじゃない』と呟いた。

リーマスにしてみればいつもと変わらない青白い自分の顔色の些細な変化も、ルイの目にはまるで信号が変わるかの様な明確な変わり様に映るのだという。どうしてなのかは本人にも分からないらしいのだが、それだけでルイが他人に対しては驚く程の観察眼を持っているのだとリーマスは確信している。
…自分に向かう他人からの感情のベクトルには、末恐ろしい程鈍いのだが。



リリーはテーブルにルイと並んで座るやいなや、早速この前のシリウスの活躍を褒め始めた。
余程意外だったらしく、リリーの口からは普段のシリウスに対しての態度からは想像もつかない位の賛美の言葉が矢つぎ早に出てくる。
当の本人が聞いたらそれこそ目玉が飛び出る位に驚くのだろうが、意地っ張りのリリーのこと、きっとシリウスが来たら即座に口を閉じるに違いないとリーマスは思った。

ふと向かい側に座るルイを見ると、
ルイはレイブンクローの席を見ていた。
その視線が何故かとても悲しそうで、思わずリーマスは魅入ってしまった。

ルイの視線はしばらく宙をさ迷っていたが、無駄だと思ったのかゆっくりと視線を朝食へと戻した。
その途端、リーマスが自分を穴の開く様に見ていたことに気付き、ルイは慌ててぎこちない笑みを浮かべた。
しかし、リーマスはそれで誤魔化せられる奴ではなかった。

「な、何??リーマス??」
「どうかしたの??」
「う、ううん、何でもないッ!!」
「誰か探してるの??」

微かに探る様な口調にしてみたが、ルイは気付いていない様だった。
ルイはただ『何でもないよ』とだけ繰り返し、それ以上リーマスの問いに答えなくてもいいように、スープを掬い上げたスプーンを口に突っ込んだ。






『ルイを、嫌いに、ならないで。』



胸がチクリと痛んだ。
三日月が闇を照らしたあの日、この学校から飛び立ってしまった、あの少女の言葉が、酷く耳に突き刺さる。

あれ以来、勿論彼女を見掛けることはない。
グリフィンドール生はおろか、彼女の寮の生徒達の口からも、彼女の名前が出てこない。

あの後図書室で調べてみた。

シエナ・レダム自身はさすがに載っていなかったが、ユニコーンの血を継ぐ一族がいることは確認出来た。

彼等には人間として生きる時間が定められており、刻が来ればやがて旅立ちの準備をし、自分に関係した全ての人間の記憶から、自分の記憶だけを消し去って行くのだ、とその本は語っていた。








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