リーマスは走っていた。
角を曲がり、階段を駆け降りる。
目指すは凍てつく様な水の流れる噴水のある中庭。
『…クィディッチの試合の後…中庭に来てくれない??』
『??』
『きっと皆寮に居るから、誰も居ないだろうし。』
『……何の用??』
『お願い、聞かないで。』
『……??』
『何も言わないで、来てくれればいい。
………きっと、これが最後だから。』ザッと中庭を見た。
白い靄さえ見え始めた季節の月は、いつもより数倍美しく見えた。
そこに居たのは………
「……!!!!」
夜空色をした、漆黒の一角獣<ユニコーン>。
「…シエ…ナ…??」
『……今日でね、
もう、終わりなの。』
意識に直接響いてくるその声は、確かに彼女だ。
そっと近付き、その体に触れてみる。
人間だった名残は何処にもなかったが、
リーマスには…ちゃんと分かった。
『私の血は、家族で一番強かったから。
…一度姿を失えば、もう人間に戻る事が出来ないの。』
「…校長先生には…」
『もう言ってあるわ。
シエナ・レダムとしての生活を終える事も、
今日を最後に、ホグワーツを去ることも。』
「………」
『…楽しい、学校生活だったなあ。
ダンブルドア先生に頼み込んで、
3年間だけ、学生として居させてもらって。
…居なくなる事が分かっていたから、
正直、少し退屈もしていたのだけれど。
やっぱり最後はとても、楽しかった。』
「………」
『…だから言ったのよ??
もっと私に出来る事はないかって。
貴方を支えてあげたかったから。
…私がまだ人間でいる内に、
貴方といた時間を増やしたかったから。』
「………」
『…ねぇ、リーマス。
私、貴方にもっと笑ってほしい。
だって、貴方は、
あんな素晴らしい子を好きになれたんですもの。』
「………」
『………リーマス、どうしたの…???』
「…………」
『……ああ、そうなのね…』
「…………」
『……ありがとう。
こんな私の為に…
泣いて、くれて、いる、のね……』
段々と、シエナの声がか細くなっていく。
『………ねぇ、
リーマ、ス。
お願いが、あるの。
あの子を、ルイを、
嫌いに、ならないで。
ルイは、人に好かれる、
そうする事で、生きている。
人に、好かれていれば、
悲しみだって、乗り越えて、行ける。
でも、彼女は、
人から、嫌われる、事を。
誰よりも、ずっと、怖がる。
人から、嫌われて、しまったら、
彼女は…
きっと、壊れて、しまう。
だから…
どんな事が、あっても、
彼女を、好きで、居続けて。
お願、い。
リーマス。
あの儚い少女を、
壊さないで…』
「……シエナ……」
彼女の微笑みが、見えた気がした。
『最後に、貴方を好きになれて良かった。』
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