happy days | ナノ


□happy days 12
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ルイには実は作戦があった。
さりげなくピーターを褒めて、彼女の中での彼の株を上げようというものだった。
…しかしそれには1つだけ欠点がある。
ピーター自身に良い所が1つもないことだった。

ルイは心の中でウンウン唸る。
そもそもルイの中でのピーターのイメージといえば、『魔法薬学』の授業で薬品を爆発させる名人で、いつも引っ込み思案で目立ちたがらない、悪戯仕掛人の中で最も陰の薄い人物で…
…どこが褒めていると言えるだろうか。
むしろ欠点をさらけだしている様に思う。
このままでは愛のキューピッド失格だ。
(ルイは自分とセブルスを『愛のキューピッド』と呼ぶことにした。セブルスは内心逃げたいと思ったが、ルイの輝く笑顔を前にして、彼に成す術はなかった。)

「(どうしよ…)」

ルイがホトホト困り果てた時だった。
不意にシエナが呟いた。

「ねぇ、ちょっと良い??
…ピーターの事なんだけど…」

ルイは飛び上がりそうになった。
これはまたとないチャンスだ。やはりシエナもピーターの事を!!
ルイは嬉しくなったと同時に、絶対にピーターの恋を成就させるのだ、とルイは変な使命感に一人燃えた。

「ピーターがどうかしたの??」

浮きたつ気持を抑え、ルイは出来るだけ平然と言葉を返してみた。
シエナはフッと笑みを零し、自分の手を握ったり開いたりしながら呟いた。

「ううん、何か…この頃お世話になりっぱなしだから悪いなぁ…って…」
「そんなことないわ!!
ピーターは優しいもの。そんなこと思わなくても大丈夫よきっと。」

シエナはそれを聞いて微笑んだ。
順調順調。ルイは顔がニヤケるのをまた一人こらえる。

「ピーターって…『イイヒト』よね??」
「うん。とっても『イイヒト』よね!!」



ルイは無邪気に笑った。
これならきっと、ピーターの恋は報われる。
そう確信していた。
シエナが、わざとピーターの話題を振ってくれたことも知らずに。






「ルイには好きな人とかいる??」

好奇心でそう聞いてみた。
ルイはきょとりと目を丸くした後、顔を些か赤くして首を振る。その間に『私まだ分かんないから…』ともごもご付け加えた。

「レイブンクローでは、貴方とリーマスが付き合ってるって言われてるわよ??」
「え…えぇ!!?」

顔を真っ赤にして驚くルイを見て、シエナは素直に可愛いと思った。

「だって貴方達って仲良いじゃない。『数占い学』の後とか良く一緒に居るし。」

そんな二人を、特にルイを羨ましい気持ちで見ていた自分を上手に隠した。
ルイは気恥ずかしさからか、赤くなった頬を手で覆い隠している。
クスクスと忍び笑いし、『ルイったら可愛い』と言ってみると、ルイの顔は発光しそうな程に赤くなってしまった。

「…シ、シエナは??」
「…私??」

ルイは熱の冷めきらない顔で、然ししっかりと言葉を紡ぐ。



「シエナには…好きな人とかいるの??」



…予測通りだ。
相変わらず、変な所に鋭い。

「(好きな人…か。)」

シエナの脳裏に、あの鳶色の髪の少年が余切る。
けれど、これは恋とは違うものだと自分では理解していた。

…言わば、これは同族愛。
誰にも理解されずそして認めてもらえなかった自分のドロドロとした汚い感情の吐き溜めを、彼は理解し、そして認めてくれた。
この血に流れる忌々しい血も、そして苦しみも、誰一人として打ち明けたことはない。

同族にしか分からない、自分が自分でなくなる感覚。
どんなに自我を保とうが、それもやがて混沌の闇の中へと落とされていく。

小さい頃から、良く悪夢に悩まされてきた。
どこまでが『自分』で、どこまでが『アレ』なのか分からず、そして『自分』が闇へ落とされ、この躰が『アレ』のものになる夢。
朝霞が見える時間に目が覚める。
そして、朝陽が昇るまで涙は絶えない。

どうして自分はこんななのだろう。
どうして自分の血はこんななのだろう。
どうして親は自分を生んだのだろう、
普通の人間に生んでくれなかったのだろう。

いつからだろうか??
親の目を見なくなったのは。
いつからだろうか??
毎晩笑顔を作る練習をしたのは。
いつからだろうか??
彼を目で追う様になったのは…

ダンブルドアから話は聞いていた。

彼が狼男であることも知っていた。

そして、彼の周りにいる友人(ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、ピーター・ペティグリュー)達が、彼の秘密を知りながらも彼との絆を保ち続けていることも。

聞かされた時最初に、何て無茶をする子達なんだろうと半場呆れ返ってしまった。
ホグワーツだからこその処置とはいえ、もし外部の人間に知られてしまったら、退学どころでは済まされないというのに。

『止めなくていいのですか??』

思わず疑問が口から出てしまった。
どこまでも蒼くどこまでも澄んだブルースカイの瞳を持った、この世で最も偉大な魔法使いはただ笑い、『秘密があった方が、少年は生き生きとするものじゃ』と楽しそうに言ったのを、おぼろげに覚えている。

『リーマス・J・ルーピンと仲良くなってみるといい。
君の捻くれてしまった笑顔が、また生き生きとしてくるかも知れぬじゃろう??』



……いつまで経っても、喰えない爺だ。








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