happy days | ナノ


□happy days 12
78/497









「ルイ!!」

自分の名を呼んだ新しい声色の持ち主に、ルイはパッと振り返った。
向こうでニコニコしながら自分を待っているのは、最近友達になった『レイブンクローのお姫様』、シエナ・レダムだ。
ルイはいそいそと鞄を持ち、突然の事に呆けていたリリーやシリウス達に言葉少なに『じゃあまた後でね』と言い、ルイはシエナの元へ急いだ。
リリーはため息をついた。
ルイがシエナにばかり構っている所為で、この頃ルイと一緒に過ごす時間がめっきり減ってしまったからだ。

「へぇ…ルイってばいつあの『レイブンクローのお姫様』と仲良くなったんだい??」
「何でも図書館で知り合ったらしいよ。」
「なるふぉほへー」

ジャーマンポテトを口の中でモゴモゴさせながら呟いたジェームズに、リーマスは苦笑しながら答えた。
この頃元気のないリリーを密かに心配していたジェームズは納得し、ポテトを一気に飲み込んだ。

「道理でリリーの拳にいつもの破壊力がないわけだ。」

ジェームズはおどけてみせたが、リリーからの反撃はない。
これはいよいよ深刻だ!!ジェームズは青くなってそう叫んだ。
おまけに…これまたシリウスの目が怖い。
まるでシエナを呪い殺さんとするばかりだ。

「…シリウス、相手女の子女の子。」
「アホか!!グリフィンドールにリリーみたいな女がいるんだ、他の寮に同じ様なのがいてもおかしくねぇだろ!!」
「君の中のリリーってナンナンデスカ。」
「ッあぁもううるさい!!
静かにして頂戴二人共!!」

余程イラついているのだろう、ギャンギャン喚き散らすシリウスと呆れ顔で彼をなだめるジェームズに、リリーは思わず声を張り上げた。

「何だよ、人が折角心配してやってんのに!!」
「べ、別にルイが誰と仲良くしようが、私に口出しする権利なんかないもの。
ルイが他の寮生の子と仲良くしたいのなら仲良くすればいいだけの事よ!!」

「まぁまぁ、そんなに寂しがらなくても良いよリリー。ルイが居ない分、僕が君の胸の傷をたっぷり癒してあげるからさ♪」

いつの間にやらリリーの肩を抱き、ジェームズはとびっきりの笑顔を見せた。
その当て付けがましい笑顔がいけなかった。

リリーはジェームズをアッパーでKOし、シリウスにイーッと口を広げて悪態をつくと、プリプリしながら大広間を後にした。

「…なぁジェームズ…
お前って可哀想な奴なんだな…」
「フ…複雑な愛憎模様って奴さ…」

しんみりと呟いたシリウスに、ジェームズは倒れたまま格好つけてそう答えた。シリウスは鼻血出して言われても…と内心焦った。



その頃リリーは怒りに任せて、鼻息も荒くずんずん廊下を進んでいた。



「(そうよそうよ私はどうせこの頃ルイがシエナとかいうあの女の子と仲良くしてるからって気にしないほどそっけない女じゃないわよ!!ルイとの時間を奪われたってだけで平気でプリプリ怒る女よ!!)」

彼女の鬼の様な形相に、周りはいつの間やら彼女を遠巻きにしている。

「(大体ジェームズもこういう時位紳士的に振る舞ってくれたら良かったのに!!
なのにあの馬鹿メガネったらこんな時までおどけてみせるなんて!!
もう頭にきた!!こうなったらこの前図書室で読んだ本にあったアレを作って飲ませてやる!!)

リリーが言っているアレとは、彼女が最近読んだ本の中に出てきた魔法薬、ジェントル・ジェントル『無抵抗主義の紳士薬』のことである。

何でもその薬品名通り、その薬を飲んだ者は一週間、それは正に古き良き時代の貴族の様に、思慮深く気高く上品な物腰を持つ人間へと変貌してしまうというシロモノらしい。

「(効き目は本でばっちり読んだわ!!
でもアレって作るのかなり大変なのよね…
材料集めるのにも苦労するみたいだし。
誰かいないかしら…アレを作れる位の調合力を持った人なんてホグワーツには……)」

リリーは怒りなど綺麗さっぱり忘れ、その綺麗な整った眉をギュッと寄せながら歩き続けた。
廊下を右に曲がったリリーは、刹那、誰かと追突しそうになっているのに気付き慌てて立ち止まった。

「きゃ…」
「…と。」

リリーは目をパチクリさせた。
ぶつかりそうになった相手の顔を見た瞬間、さっきまでの彼女の悩みは掻き消えた。

「あッ!!!」
「!!??」

そうだ。忘れていた。
ホグワーツでも一、二を争う位の奴が、
あの脂ぎった黒髪の、『魔法薬学』のエキスパートが、自分の目の前に立っていることを。



「へぇ…今度のクィディッチ、シリウスも出場するの??」
「うん、この前からずっと練習続き。
いつもヘトヘトになって帰って来るわ。」

ルイは軽く握った掌で、口を少しだけ隠して笑った。
シエナはその仕草に、一時目を奪われる。
きっとこういう仕草が、彼等を夢中にさせるのだろう。そう思いながら。

「…ねぇ、もっと話してくれる??
私クィディッチ大好きなの!!」

試合中は選手などろくに見もせず、逆にそれで狂喜乱舞する自分以外の全ての人間を観察することしかしていないシエナははしゃいで言った。








[次へ#]
[*前へ]



[戻る]
[TOPへ]
bkm





×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -