happy days | ナノ


□happy days 12
77/497






ほら 逃げなきゃアリス

ウサギはとっくに先へ行ってしまったよ

早く逃げなきゃ死んじゃうよ

この森にはオオカミが居るんだから

『オオカミ??』

そう



白くて大きな牙を持ち

金色の目で絶えずお前を狙っている

大きな大きなオオカミが……






彼女に告白されたのは2週間前。
ダークブラウンのたおやかな髪をなびかせ、
その目に淡い期待を秘めて、約束の場所に立っていた。
彼女はホグワーツでも結構知られている可愛い。
…僕等も色んな意味で有名だけど。

『…で、何??』

早く戻りたくてそう声をかけた。
彼女は「急に呼び出してごめんね」と謝り、そして花の綻ぶ様なとびっきりの笑顔を見せた。
その困った様に眉を下げて笑う姿に、ルイの顔がふとダブって見えた。

…ああ、なるほど。確かに可愛いな。

用件はこう。

「リーマスって付き合ってる子とかいるの??」

この頃良く言われる。
そんなに僕って奥手に見えるのかな…

ルイは好きだけど付き合ってる訳でもないから、とりあえず首を横に振っておく。
彼女はそれを見るとまた柔らかく、今度は頬を薔薇色に染めて微笑んだ。

『…でも、好きな子はいるよ。』

そう付け加えた瞬間、彼女の顔色が怪訝な色に染まる。
わぁ、女の子の顔色が変わるのって案外怖い。

「それ、誰??」

さっきまでの可憐さはどこへやら、とても冷たい目をしたまま彼女は聞いてきた。

女の子ってこういう時ってこんなにも目付きが変わるものなんだと、一人それを心の中に刻みこんだ。

『さぁ、誰だろうね??』

悪戯っぽくそう尋ねる。
彼女はしばらく考え、それからまた冷たく笑みを零した。
…何だか僕女の子のイケナイ一面を見ちゃったよ。

「当ててみてもいい??」
『どうぞご自由に。』
ルイ・ホワティエ。

わかってるじゃないか。
即座に帰ってきた正しい答えに応じる為の言葉の代わりに、クスクスと笑いが唇から漏れた。

本当、女の子ってこういうのに嫌に鋭いから怖い。

『分かってるなら聞かなくてもいいんじゃないかい??』
「念の為よ。噂は本当かどうか。」

大方僕等がルイに惚れてる所為で、他の女の子に見向きもしないとかそんなものだろう。
彼女は冷たい笑みを崩さず話を続ける。

「デタラメだったら儲け物だったけど…
どうやら本当みたいね。」
『で、聞いた後の御感想は??』
「最悪。」

…人は見掛けによらないとは良く言ったものだ。
現に、今僕の目の前にいる可愛い顔立ちをしたレイブンクローのお姫様は、下手をすれば鬼婆より怖い気がする。

『…どうする??
これで君が僕を呼び出した理由の返事はしちゃったんだけど。』
「待って。」

僕も次の授業行かなきゃいけないし…
そう言いかけた瞬間、彼女の目付きが変わった。



「…あと…

もう、1つ。」



一瞬だけ、彼女に恐怖を覚えた。

気迫がどうのとか、声がどうのとか…
そういう問題じゃない。

その目に宿るのは、死の気配。
その声に漂うのは、狂気の香り。
死を超越した神話的風格。
生を圧倒した混沌の象徴。
僕と同じ何かが、彼女には巣食っていた。


「貴方の手助けをさせて欲しいの。」



彼女は闇の中、その目を爛々と輝かせる。
その表情に後退りたい気持ちを押し殺し、なるべく平然とした態度を保った。

『どうしてそんなこと??』
「別に??貴方の役に立ちたいだけよ。」
『僕が素直にそんな理由だけで信じると思う??』
「悪戯仕掛人の中で一番警戒心の強い貴方に、信頼なんか求めていないわ。」

季節の移り変わりを知らせるかの様に、冷たく冷えた風が彼女の暗い色の髪を乱した。
彼女は白い指で髪を整える。



「ただ私は、貴方の助けになりたいの。

貴方が邪魔だと思う問題は全部私が片付けてあげる、
貴方が邪魔だと思う障害は全部私が消してあげる。
貴方がどんな失態を冒そうとも、私がそれを全部埋めてあげる。」

『……奴隷だね。』

「あら、別に良いわ。

貴方とこうして話せれば、
貴方の命令に従えれば、
貴方の失態を埋めれば、私は満足なのよ。」



クスクスと笑う彼女は、最早鬼婆以上に恐ろしさを感じさせる。
今自分に向けられている彼女の感情のベクトルは、今にも自分を噛み殺してしまいそうだ。

……けれど、もしかしたら。
これは、良いチャンスかも知れない。
彼女の思惑がどんなものかは知らない。
いや、知ってしまった所で特に自分の中の何かが変わるものではないし、そして彼女の中の何かを変える事も無理なのだろう。

ならば踊ってみようか。
彼女の、この掌の中で。

『…分かった。
宜しく頼むよ??シエナ。』

返事の代わりに彼女は笑う。
それは信頼しきった親友との絆よりも遥かに安っぽく、しかし限りなく清廉な笑顔。

互いの利益の為だけに動き、相手の知らない所で甘い蜜を吸いたいのなら吸えば良い。
情報を得たい時だけ相手に頼り、その他の全ての行動は全て自分で責任を持って行動を管理する。

ビジネスにも似たこの絆の楽しさ。
それは、どちらが相手の掌の上で踊るかという駆け引きがあるが故。

今の自分が欲するものは1つ。

自分が大切に想う少女の、
他者に害を及ぼされた時の、
慰めを欲することに対し貪欲な、
自分を限りなく嗜虐的な気持ちにさせる、
あの不透明な感情の雫のみ。











[次へ#]
[*前へ]



[戻る]
[TOPへ]
bkm





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -