happy days | ナノ


□happy days 10-B
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「静まりなさい!!もうこれ以上の暴挙は許しませんよ!!」

とうとうグリフィンドールの寮監で、『変身術』の先生であるマクゴナガル先生の怒鳴り声が聞こえてきた。
マクゴナガル先生の一声で、殴り合っていた生徒も罵り合っていた生徒も、はたまた気絶していたはずの生徒でさえ、途端にクモの子を散らす様にみんな一目散に逃げてしまった。
ルイは何とかシリウスの手を引っ張り、二人して医務室がある方の廊下を走り抜けて行った。

「…全寮生が見境なくこんな大喧嘩をするなんて…それこそ正気の沙汰です!!」

マクゴナガル先生のヒステリックな声が響く。
その後ろから彼女をなだめる様に出て来るのは…現ホグワーツ校長のアルバス・ダンブルドアだ。

「今年のホグワーツ生も元気があって結構結構。
特にグリフィンドールの…大した者達じゃよ、
これほどまで人の心を動かすのは。」

ホッホッホ…とアルバス・ダンブルドアの高笑いが響く。
ロウソクの光はいつの間にか柔らかな暖かい煌めきを見せていた。






医務室をのぞいた。
マダム・ポンフリーはいないようだった。
ルイはスルリと彼を連れて中に入った。

「良いのか??勝手に薬品棚あさって……」
「この頃良く怪我とかしてたし、もうどの棚にどの薬が入ってるか分かるから…」

昔取った杵柄とは良くいったものだ。
ルイはテキパキと薬品を手に取り、机に順に並べていく。
最後に脱脂綿とピンセットを取ると、シリウスを向かいの椅子に座らせて治療を始めた。

改めて見たシリウスは、傷と打撲だらけだった。
ローブも所々ほつれが見え、後で縫ってあげようとルイは思った。
女子生徒が黄色い声をあげる整った顔は擦り傷が目立ち、ルイは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

時々シリウスは顔をしかめる。きっと『痛い』と声が出そうなのを我慢しているのだ。
しばらくして治療は終わり、ルイは最後に杖を一振りした。キラキラと光が瞬き、シリウスの腕や顔の擦り傷はすっかり消えてしまった。

「……サンキュ、な。」
「う……うん……」

……それから会話が続かない。
ルイは手の中の脱脂綿の残りをこねくり回して、出来るだけシリウスと目を合わせない様にした。
すると突然、シリウスが口を開いた。

「……あの…さ。」
「???」
「…左耳…見せてみろよ。」

遠慮がちにシリウスは呟いた。
嫌がるかと思ったが、ルイは素直に髪ゴムを取って髪の毛を下ろした。
久しぶりに見たルイは、何故か酷くやつれた様に見えた。
シリウスはルイを怖がらせない様、出来るだけゆっくりとルイの左の髪をかきあげた。
血に汚れて赤黒くなった赤いピアスが姿を現す。金属は血の鉄分で錆びたのか、少しだけ変色してしまっていた。

「……まだ、痛いか??」
「……少し。」

シリウスの指が赤く汚れた耳たぶに触れる。
刹那、ルイの体がビクリ、と揺れた。
余程痛かったのか、表情を歪ませたルイに、シリウスは慌てて謝る。

「わッ、悪ぃ!!痛かったか??」
「う、ううんッ!!少しビリッてしただけ…
だから……ホント…本当…に……大丈…ッ」

最後の言葉は聞き取れなかった。
ルイの目から、また涙が零れたからだ。

「お、おい、ルイ!!?」

シリウスはどうして良いか分からずにオロオロしているばかりだ。

「ッごめ…ッなさ…ッ!!
っ…て……ッだって…ッ…!!」

真珠の様な涙を零しながらも、ルイの顔は何故か笑顔で溢れている。
そんな不可思議な表情のルイを見て、シリウスは完全にパニック状態だ。

誰かがトントン、と扉をノックする音が聞こえた。
シリウスは思わずびくぅ!!と反応し、慌てて泣いているルイの手を引き寄せ、入院患者用のベッドへ駆け込んで、シャッとカーテンを閉めた。

『…マダム・ポンフリー…居ますかー??』
『居ない…みたいだね。』
『仕方ないか…また後で来よう…』

閉まる寸前のドアから聞こえてきた『イテテ…』という声からして、きっとさっきの大乱闘の被害者だろう。
そう思いながら遠ざかって行く足音を、シリウスはぼんやりと聞いていた。
その時シリウスはやっと、ルイをギュッと抱き締めている事に気が付いた。
慌てて離れようとしたが、すぐにルイの涙に気付くと、ゆっくりと抱き締めていた手をさっきの位置に戻した。
ルイは拒まなかった。

壁にかけられたアンティーク調の振り子時計が、無常にも時を刻んで行く音しか聞こえない。
シリウスはルイの顔をのぞきこむ事も出来ず、時々ルイの長い髪をサラサラとすく事しか出来ない。

「…どうして…黙ってたんだ??」
「……怖……ッかったの…ッ……」
「人の日記見たから嫌われるって思ったのか??」

ルイは目を真っ赤に泣き腫らしたままコクリと頷く。シリウスは呆れてため息をついた。
嗚呼もう…どうしてこんなに愛しく思えるのだろうかと。
どうやらこの恋は重症らしい。

「…一応聞いとくが…俺らが日記見たからって人を嫌うような奴に見えるか??」
「ッて……ホ、ホントにッ…嫌ッ…われ…るかとッ…!!」
「…安心しろ。今回は相手が悪かっただけだよ。
お前が何をしようが、…俺は、最後までちゃんとお前を信じてやるから…。
だから…なぁ、……また泣くなよ…」

なだめる様にルイの背中を包む。
体が密着した今だが、不思議と胸は落ち着いている。

「お前はもう充分に反省したんだろ??
それならこれ以上悩む必要がどこにある??
いつまで経っても、本当…変わんねぇな。
そんなに人が言った事気にする奴なんざ、ホグワーツでもお前位だぜ??」







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