◆完成させるのが面倒になっちゃった…
2015/08/03 02:22

ウェザーのライブで絶対やらないと決めていることがある。
それは――
「ねぇねぇ、なんで上半身裸の衣装やらないのー?」
「もはやそれは衣装じゃないだろう」
「そういうことを聞きたいんじゃなくて! なんで上半身裸をやらないのー? 他のバンドではやっているよー?」
ムツキは溜め息を吐いた。
「風紀が乱れる。俺たちみたいな人気バンドがやったら真似するアホウが出てくるだろう。だいたい、そういう演出をする所はそうしなきゃウケないからやるんだ。俺たちはそんな下等なバンドじゃない。奴らと同等になる必要はない」
「スーツの上着を脱ぐだけで大盛り上がりだったもんな」
「それに何回も脱ぐ演出していたら飽きちゃうしね。たまにやるから効果があるんだよ」
ミナヅキとヤヨイが笑いながらフォローする。
「トップバンド…」
サツキはポソリと呟き、誇らしげな表情になった。
プライドを刺激され、思い直したのだろう。
結果的に、納得したように頷いた。
「で、『上半身裸の演出をやらない』を選択した我がバンドの来る次回の衣装はどうするのかね?」
「もうすぐ夏だから浴衣か甚平はどうかと思ってな」
「おぉ! いいな!」
全員から同意の声が上がり、楽曲も夏らしくしようかと盛り上がった所で今日の話し合いは終了。
演出・衣装担当のムツキに「期待している」と皆声を掛けて解散したのだった。


パタン、と自室のドアを閉めムツキは姿見の前に立った。
なぜウェザーが上半身裸にならないか。
もちろん、先程説明したのも本音である。
だが――。
ムツキはTシャツを捲った。
そこには、
「……」
ぽよん、としたお腹。
その正体は言うまでもなく、ぷに、とつまめるほどの柔らかい脂肪である。
服の上からは分からない程度ではある。
だが、実はズボンのウエストのサイズが1つ上がったとか、身体のラインを見せるような服を着れなくなったとか……要するに、ムツキ自身が太ったから上半身裸の演出をやらないのだ。
演出担当の特権……否、暴挙である。
「……」
ムツキは虚しくなって姿見から離れた。
原因は分かっている。
根本的な運動不足。
元々インドア派のムツキは当然運動も不得意だ。
大食いしているわけではないが、消費エネルギーが少ないため、大学生になってから体重が増える一方で。
「なんでアイツらは太らないんだ……」
アイツらとはもちろん自分以外のウェザーのメンバーだ。
(まずミナヅキ。アイツはバスケサークルと掛け持ちしている。)
摂取エネルギーも多いがその分消費エネルギーも多いため、太らない。
(次にヤヨイ。アイツは小食だ。)
摂取エネルギーが少なければ当然太らない。
……筋肉が無いのは自分と同じだろうが。
(シワス。アイツはこっそりジムに行っている。部屋で筋トレもしているようだしな。)
以前、部屋に行った時、ベッドの下からダンベルが出てきたのには驚いた(しかも5kg)。
(一番訳が分からないのはサツキ!! なんでアイツは太らない?!)
しょっちゅう甘いものを食べているのに!!
……だが、身体が小さい分、消費エネルギーが大きいのだろう。
そう推測している(じゃないと納得いかない)。
「……困った」
とにかく、だ。
このままではさすがにイヤである。
メンバーにバレずに痩せて、かつ、筋肉をつけたい。
それにはやはり運動しかないだろう。
しかし。
今から運動系のサークルに入る?
(運動音痴の俺が?)
ジムに通う?
(シワスに会ったら絶対からかわれる)
食べる量を減らす?
(それこそ美容の大敵だ)
そうして、ムツキの出した結論は……。
「……ということで、俺と外で遊んでくれ」
「……どうしてセキラをすっ飛ばしてボクなんですか」
テトラータにて。
目の前で頭を下げるムツキにカヤは大困惑していた。
「セキラと遊ぶなんてすぐアイツらにバレるだろうが」
「……」
カヤは溜め息を吐いた。
面倒だ、という気持ちが雰囲気から滲み出ている。
だが、ムツキも退けない。
この通り、と手を合わせてムツキは懇願した。
「何でも好きな物買ってやるから。ゲームでも漫画でも服でも」
「……算数を教えて欲しい」
そんなことで良いのか、とムツキは驚いたがカヤがそう言うのなら。
こうして、2人のささやかな交流(?)が始まった。





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