◆ふはは…
2015/05/26 23:02

セキラが再び寝入ってから、シワスは後のことをセツに任せ、テトラータへ出掛けた。
もちろん、カヤに会う為だ。
……当然セキラとの約束は守る。
必要以上のことは言うつもりはない。
「大きくなったな、カヤくん」
「……お久しぶりです」
少年から青年へと成長した銀の鳥にシワスは思わず懐かしさに笑みを溢した。
一方、カヤは突然のシワスの訪問に首を傾げている。
それもそうだ。
シワスとカヤにはほとんど接点がない。
シワスは笑みを消すと真剣な顔で告げた。
「単刀直入に言おう。セキラのことだ」
「……え」
「そのことで話がある。出来ればヨヒラちゃんとも話したい」
「……セキラに何かあったんですか?!」
その反応でシワスは自分の考えが正しかったと確信する。
「あったと言えば“あった”になるかな。とにかく、頼むよ」
「……分かりました。ヨヒラの所へ行きましょう。テレポートします」


ヘクサグのとあるカフェで二人はヨヒラと合流した。
シワスは久々に見たヨヒラに言葉を失ってしまった。
前は天使のように可愛かった。
だが、今は――例えるなら女神かヴィーナスか。
透き通るような白い肌。
澄んだ青を縁取る長い睫毛。
ウェーブのかかった滑らかな栗色の髪。
見た目から分かる。
彼女の心は昔と何一つ変わらずに美しいことを。
……確かに、これで諦めろ、は厳しいな。
こっそりセキラに同情しつつ、シワスは心配顔でこちらを見ている二人に前置きもなく本題を提示した。
「セキラと距離を取っているそうだな」
「!!」
途端、みるみると顔を赤くするヨヒラ。
そのウブな反応にシワスは苦笑いする。
「……それが何か?」
ヨヒラと違い眉間に皺を寄せたカヤにシワスは手をヒラヒラと振った。
「分かっている。別にセキラを穢らわしいと嫌って距離を取ったのではなく、単にヨヒラちゃんの刺激にならないようにする為だったのだろう?」
恐らくヨヒラは男女の交わりに関して無知だ(そう信じたいが)。
セキラのあの時の愚痴曰く「二人はまだマトモにキスすらしていない」。
そんなヨヒラが初めて男女が寝ている所を見たのだ。
よりによって、兄と慕っている仲間の。
……相当な衝撃だったに違いない。
カヤの処置はヨヒラを落ち着かせる為にしたものである。
それをセキラが勝手に「嫌われた」と解釈したのだ。
「二人はセキラを嫌っているわけではないのだろう?」
「当たり前です!」
即答で、しかもハモった返しにシワスは安堵の笑みを漏らした。
「向こうも『きっとこれがエロ本を隠していることが親にバレた時の感覚に違いない』と言っていた。互いに気まずくなるのを避けたかったんだな?」
「……はい」
「だが、セキラは『嫌われた』と勘違いしたみたいだ」
「え?!」
「だから出来るだけ早めにまた会いに行ってやってくれ」
シワスは微笑みながらコーヒーを手に取った。
ヨヒラが赤くなった頬を両手で押さえながらそっと下から窺う。
「あのね、嫌ったわけじゃなくて、その……セキラも大人の男性だし……でも、ちょっとビックリしちゃって……」
「言っておくが、今回の件に関してはセキラが全面的に悪いと私は思っている」
内部事情もな、と心中で付け加える。
「だが、人の行動の裏には必ず理由がある。キミたちもそうだろう? 面倒かもしれんがセキラに理由を説明してやってくれ」
いつものセキラならこの二人の対応の理由に気が付けただろう。
しかし、恋は時にマイナス思考をもたらす。
現在セキラは負に囚われ心の余裕がない。
「セキラを支えられるのはキミたちとホノケくんだけなんだ」
話は以上だ、とシワスはソファに身体を深く沈めてコーヒーをすすった。
セキラの「恋事情」やヨヒラの「仲間との関係性」について首を突っ込むつもりは毛頭ない。
だいたい、これ以上はセキラの“約束”に反する。
「……分かりました。ありがとうございます」
「頼むよ。あぁ、私がキミたちに会ったことはヒミツにしておいてくれ」
ペコリと頭を下げたカヤとヨヒラにシワスは笑いながら頷き、そしてもう一度コーヒーカップを口元に傾けた。


数日後。
セキラから「二人が会いに来た!」と嬉しそうな声で電話があった。
「先輩が何か言ったんですよね?」
「はて。何のことやら」
「誤魔化さなくて良いですよ。先輩は僕の勘違いを伝えただけ、って分かっていますから」
「……まぁ、通常運転になって安心した」
「あはは! ご迷惑おかけしました。そして……約束守ってくれてありがとうございます」
「……」
「……また何かあったら会いに行って良いですか?」
「……!! もちろんだ。セツも喜ぶ……ちょっと悔しいが」
「飲み屋でも良いですよ?」
「いや、二度と連れていかんっ!!」
軽く怒鳴ったシワスにセキラは「冗談ですよ!」と笑うと「また電話しますね」と言い残して電話を切った。
(……とはいえ、根本的なことは何も解決していない。)
受話器を置きながらシワスはため息を吐く。
しかし、これはセキラの問題だ。
彼がどうにかしなければならない。
(お前が答えを出せるよう私はいつでも協力する。)
どうか大切な後輩が幸せになれますように、と。
シワスの祈りは冷たい風に乗って空へと流れていった。

(終わり)


そして、この話からの続編Bですよ。
セキラ、何も答えを出せていないじゃないか!!(笑)






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