◆忙しい時ほど…
2015/05/25 23:22

チュンチュン、というスズメの声。
ムワッとした畳の柔らかい香り。
セキラはぼんやりとする頭で布団から身を起こした。
……ゆったりとした着物を身に付けている。
はて、いつ着替えたんだっけ?
それより……とゆっくり周りを見る。
客間用の広い畳部屋。
床の間には掛軸がかかっている。
……どこだ、ここ。
「起きたようだな」
セキラの困惑した気配を感じ取ったのだろうか、着物姿のシワスが襖を開けて入ってきた。
それでセキラはようやく理解する。
ここはシワスの家だ。
「シワス先輩……い゙っ?!」
「二日酔いだろう。全く……弱いのなら先に言え」
シワスの呆れた声にセキラはズキズキする頭を押さえて縮こまった。
……ごもっともです……。
「昨夜は大変だったんだぞ? 戻しかかっているのに意識を無くすもんだから……。無理矢理手を口の中へ突っ込んで吐かせて、お前を背負ってウチまで連れて帰って……」
「す……すみません……」
セキラはますます小さくなった。
記憶が途切れ途切れなのも合わせて。
相当迷惑を掛けたに違いない。
そのようなセキラの様子にシワスは吹き出しそうになる。
いつもなら立場が逆であるはずなのに、今の状況が可笑しくて堪らない。
が、笑ったら笑ったでセキラの高いプライドを傷付けることになるので我慢我慢……。
シワスは表情を引き締めると真剣な目でセキラの目を見つめた。
「他にも色々言いたいことはあるが……、セキラ、何でも一人で抱え込むな」
「!!」
シワスのその言葉にセキラは目を見開いた。
……あぁ、僕は喋ってしまったんだ。
己の失態に羞恥に嫌悪、と様々な感情が沸き上がる。
頬に熱い何かが伝った。
……まだ、自分は酔っているのかもしれない。
「お前は昔から悩みを他人に……」
説教モードに入りかけたシワスの袖が不意にクイと引っ張られた。
ん? とシワスは下を見る。
「誰にも言わないで下さい……」
シワスは目を丸くした。
セキラはシワスの腕にすがり付きながら何度も懇願する。
その身体は小刻みに震えていた。
「……」
……それほどまでにお前は弱味を見せたくないのだな。
仲間の、彼女の、為に。
「……」
シワスは目を優しく細めるとセキラを抱き締めた。
その泣き顔が誰にも見られないように。
赤子をあやすように頭をポンポンと撫でる。
「……言わん。約束する」
「絶対に、絶対にですよ……?」
「あぁ、お前がそう望むのなら守る」
暗にセキラの意志を尊重する、ということも含ませて。
「……」
セキラはシワスの袖から手を離した。
だが、身体はシワスに預けたままだった。
「まだ身体がつらいだろう? ゆっくり休め」
「……」

――結局、シワスはセキラに「勘違い」を伝えることが出来なかった。

(続く)






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