◆思う所があってね…
2015/05/24 23:40

数分後。
支離滅裂なセキラの単語からようやくシワスはセキラの“悩み”を理解した。
……こんなところで国語教師としての技術が役立つとは。
酔っ払いからきちんと意図を読み取った自分を誰か褒めてくれ。
誰にって?
誰でもだ。
「……あー、つまり、お前はヨヒラちゃんに恋をしていることから始まるんだな?」
要約するとこうだ。
四年前の旅の時からセキラはヨヒラへ片想いしている。
しかし、ヨヒラはカヤが好きだ。
それを知ったセキラは「彼女の幸せは自分の幸せ」と結論付けて身を引いたのだった。
……その甲斐もあって現在ヨヒラとカヤは付き合っている。
それはさておき。
セキラは身を引いたもののヨヒラへの想いが募るばかりだった。
そこでセキラは大勢の女性と付き合い、ヨヒラへの恋を忘れようとしたのだ。
……訊けば、身体の関係まで持った人も少なくはないらしい。
お前はいつからプレイボーイになったんだ、とか、一体何をやっているんだ、とか、女性に失礼だろう、とか色々シワスは言いたかったが、それでは一方的にトドメを刺すだけなので心の内で思っているだけにする。
……当然、セキラはヨヒラのことを忘れられなかった。
もはや自棄になっていたのだろう。
そして……その日もセキラは女性と寝ていた。
セキラは事に及んでいて全く気がつかなかったようだが(それも彼にしては珍しい)――ヨヒラがその場面を見てしまったらしい。
ヨヒラはそれをカヤに伝え、そしてカヤから「しばらくボクたちはアナタと距離を置く」と宣言された……ということだった。
自業自得、と言えばそう。
四年前にセキラがケジメをつけなかったせいだ。
だが、シワスは僅かな引っ掛かりを覚えた。
あれほどまでに信頼し合っている彼らが、たったそれだけで繋がりが分かたれるか……?
(だいたいカヤくんだって男だ。そういうことに興味が無いわけではないだろう。)
とりあえず、シワスは打開策を提案した。
「……今からでも遅くない。さっさと告白して……」
「告白をしたら!! あの子は変わってしまう!! 今の居心地の良い関係が変わってしまう……」
悲痛な彼の叫びにシワスは息を呑んだ。
“居心地の良い関係”――それは、恐らく“セキラ”にとって、ではなく“ヨヒラ”にとって。
「分かっているんです。僕は臆病だ」
残酷なまでに純粋であるヨヒラは、きっと何年経過しても仲間との関係が変わらないと思っているのだろう。
「カヤと付き合っている」ということもヨヒラは「カヤが恋愛の意で自分と付き合っている」とまでは思っていない、とセキラは言う。
元々カヤが「親友として好きだ」と仲間へ常に言っていることからそう思ったのだと考えられる。
……そんなことはないのに。
カヤでさえヨヒラへの見方が「親友から恋人」へと変わったというのに。
ヨヒラはそれに気が付いていない。
近過ぎて逆に分からないのかもしれないが。
だが、セキラはそんなヨヒラを尊重している。
ヨヒラはそれでいいと考えている。
故に告白しないのだ。
彼女との今の距離を崩さない為に。
彼女の笑顔が失なわれることを、何よりセキラは恐れているのだ。
「まだ子どもだからって自分に言い聞かせて……でも……もう限界です……」
ヨヒラへの想いは毒のようにじわじわと侵食し、自身を堕落させる程に苦しめている。
想いは強くなる一方。
しかし、ヨヒラの幸せを願うなら今の兄妹のような関係を崩しては“ならない”。
が、今回二人に距離を置かれてセキラは気が付いたのだ。
「二人に嫌われる方がずっと胸が痛いんです……」
ぽつん、と。
涙を溢して告げたセキラにシワスは自分も胸が苦しくなった。
セキラはヨヒラのことが異性として好きだ。
だが、それ以上に仲間として好きなのだ。
「仲間として二人に嫌われたくないんです…ッ!!」
それはヨヒラに限った話ではない。
カヤとホノケも同じだ。
……今まで“独り”で生きてきたセキラにとってこの三人は特別なのだ。
「……」
気持ちは痛いほど分かる。
シワスは目を伏せた。
自分もウェザーのメンバーに嫌われていると知ったらかなりショックを受けるだろう。
だけど――セキラは一つ勘違いしている。
シワスはそれをセキラに伝えるべく口を開いた。
「セキ――」
ラ、と最後まで言えなかった。
というのも……セキラが顔を青くし、手で口元を押さえて震えている!!
「おい! ちょっと待て!!」
シワスは慌てた。
というか、いつの間に頼んだお酒を全部飲んだんだ?!
「気持ぢ悪い゙……」
「弱いのに無理をするからだっ!! 今トイレに……」
「も゙……ムリ゙ィ……」
「あ゙っ?!ちょっ?!」
シワスの焦った声を最後にセキラはここで意識を完全に失った。

(続く)






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