LOOP 001



 『僕』の意識が戻ると、セツは軍人らしく冷静にメインコンソールへと僕を導いた。
 
 わけもわからず誰がグノーシアかを見つけ出す話し合いが始まってしまう。要領がつかめないままその場に鎮座していると、疑いの目を向けられてしまう。どうやらラキオには特に疑われているようだ。
 
 頭に浮かんでいるのは先ほどセツに問われた、『人類はこの宇宙から消滅すべきか』という問い。もちろん否定したが一体どういう意味だろうか……。

「ねえ、大丈夫?」

「えっ。」

 目の前のスクリーンに投票画面が投影され、どうしようかとじっと見ていると、突然声をかけられた。ナマエだ。

「急にこんなことになっちゃって……わけがわからないよね。」

 僕はコクリと頷いた。彼女はでも――と話を続けた。

「グノーシア汚染者は空間転移中に1人ずつ人間を消していくみたいだから……、頑張ろう。」

 自分たちが消される前に――そういう意味だろう。僕はコクリと頷いた。同じように戸惑いながら参加している人もいると知ると決心がついた。

 ショートカットの銀髪の隙間から見える瞳はシトリンのように薄いオレンジの輝きを放っている。
 まっすぐスクリーンを睨みつけ、誰をコールドスリープすべきか決めあぐねているようだ。

「ありゃ、もう時間ないっスよ?ま、誰がグノーシアかなんてどうせわかんないんだし。パパッと投票しちゃおうZE☆」

 SQが楽観的にコールドスリープの投票を促した。
 全員の投票が終わり、コールドスリープするのはラキオに決まった。

 全員でコールドスリープを見届けようかとも思ったが、空間転移の時間が迫っているためセツに任せることにした。
 残った僕たちはそろって寝室に戻った。僕の個室へはLeviが案内してくれる。
 
「よかった、追いついた。」

 共同寝室にSQと向かったはずのナマエがコツコツとヒールをならして追いかけてきた。

「わたしからの忠告。グノーシア汚染者はあなたに取り入ろうと嘘を吐いてくるよ。だから――騙されないで。」

 ナマエの真剣な表情に、何も言えず目を奪われる。

「あなたが信じたい人を信じて。きっとわたしは――ううん、なんでもない。おやすみなさい。」

 ナマエは微笑むと、踵を返して寝室に戻っていった。
 なんとなく、ナマエにはもう二度と会えないような気がした。

 ――この僕の予感はある意味正しく、本当にナマエとはしばらく会えないこととなることを、この時の僕は知らなかったのである。

 その後、僕の個室にSQが来て、またも忠告を受けた。
 空間転移の時間が来たので、Leviに追い出されたSQを見送った後、僕はベッドに横たわった。
 すぐに意識が遠のき、眠りについた。

 起きてもなおグノーシア反応は消えず、セツに言われるがままメインコンソールへと向かうと、SQとジナがすでに到着していた。
 つまり――そういうことだ。

「あらら……☆ナマエがヤラレちゃいましたか。」

「……船内にナマエ様の反応はございません。ログを見る限り、空間転移直後にナマエ様の反応が消失しております。恐らく……、」

 Leviの言葉で決定的になった。
 わけもわからず戸惑っていた僕を優しく勇気づけてくれたナマエはグノーシアに消されてしまった。

「ラキオはグノーシアではなかったようだね……。では議論を始めようか。わたしたち生き残るための、話し合いを。」

 今日もグノーシアを見つける話し合いが始まる。
 きっとナマエは自分が消されることを薄々勘づいていたのだろう。

 ――ナマエのためにもなんとしてでもグノーシアを見つけ出す。セツを信じて。

 僕は改めて気を引き締めた。





 神経をすり減らし、疑心暗鬼になりながらもなんとかセツと生き残った。
 そして、そこでセツから銀の鍵を受け取った。

 ――「疑うな。畏れるな。そして知れ。全て知ることで救われる。」

 またあの恐ろしい話し合いをしなければならないのは正直勘弁してほしいが、またナマエに会えるかもしれないと思うと心が晴れた。

 そんな僕の心とは裏腹に、ナマエと再び会えたのは僕の20回目のループだった。







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