前世:無謀
木ノ葉崩しの混乱の中、サスケと我愛羅を追う緊急任務へ出た。囮役を買って出たシカマルは、チャクラ不足ともう1人の追手の存在で完全に『詰み』であった。任務での『詰み』に待つのは『死』のみである。
影で捕まえた敵以外の気配が背後からし、追手の到着を感じて死を覚悟した。
「うああああ!!」
女の雄叫びのような声だった。シカマルが後ろを振り向いたので、影で捕まえていた全員の敵も何もない後ろを振り向く羽目になった。
もう1人の音忍は木から落ちたようでシカマルの背後で倒れ、その上にナマエがいた。
チラっとシカマルの無事を確かめるように視線を彷徨わせた後、すぐさまクナイを取り出して影で拘束中の敵全員へ投げた。
「!」
シカマルのチャクラはもう限界を越えていて、弱まった拘束力のせいか、急所を狙ったクナイは避けられてしまった。そのまま敵と繋がっていた影はしゅるしゅるとシカマルのもとへ戻っていく。
「まだ動ける?」
ナマエはクナイを構えてシカマルと敵の間に立った。シカマルは戦力とは数えられない自分の疲労とチャクラ残量を考えて「もうチャクラは使い切った」と言った。
「だよね。しかもわたしはかなり弱い。」
拘束の解かれた敵は余裕綽々の様子でナマエの言葉に笑った。たしかにナマエは見た目も弱そうだった。
「無謀なことはしないよ。……信じて。」
ナマエはシカマルの手を掴むと、木へ跳び移りながら敵の背後へ回った。そちらはナルトたちがいる方向なので、足止めは継続するようだ。最悪なのは手分けされてここで2人とも殺された上に最速でナルトたちに追いつかれることだ。
「絶対に大丈夫……。」
ナマエの手は震えていた。握っていたシカマルの手を離すと、今度こそ腹を決めてクナイを握り直した。シカマルはナマエの後ろ姿を見て、今にも無謀なことをしそうだと思ったが「無謀なことはしない」という言葉を思い出した。
ナマエが一歩踏み出して、敵が構えたと同時に、シカマルは視界に男の姿を捉えた。
「よく耐えた。シカマル、ナマエ。」
ナマエとシカマルの方へ向かっていた敵は、反対側から来るアスマにまったく気付かず敵はアスマによって一掃された。
シカマルは体力の限界を感じたのと、死の淵から逃れられたことでその場にへたり込んだ。ナマエも同じように膝をついていた。
「よかったぁ……、」
シカマルの隣でナマエは顔を覆って泣いていた。シカマルもさすがに泣きそうだった。
「シノを応急処置して蟲を遣って俺を呼んだみたいだな。」
アスマはタバコに火を点けてナマエの頭を乱暴に撫でた。
「間に合わないかと……思った……っ、」
ガイに幻術から叩き起こされたナマエは、道中のびているシノを応急処置して事情を聞き、まだ動けそうにないシノへ増援を連れてくるよう蟲に指示してもらってシカマルたちを追ったのだった。
シカマルはようやくここでナマエの言っていた「無謀なことはしない」という言葉も、時間稼ぎの意味もわかった。 ありがとうという意味をこめてシカマルは泣き続けるナマエの肩に恐る恐る手を置いた。がばっと顔を上げたナマエの涙目とシカマルの目がぱっちりと合う。
「うーっ生きてて良かったねえ……っ!」
「うわ、」
ナマエが飛びついたのでシカマルは背後に倒れかけたが、なんとか手をついて防いだ。シカマルの胸でわんわん泣くナマエごしにニヤニヤと笑うアスマが見えて気づかれないようにため息を吐いた。