山中家の1人娘には幼なじみが2人いた。
 
 食べてばかりいるが優しい男の子と、めんどくさがりやだが優しい男の子。わたしはこの2人が大好きだ。この2人の家と腐れ縁のこの家に生まれて自分は幸せ者だと思った。――たしかに、そう思っていた。

 アカデミー時代は、恋だとか、男子はあっちで女子はこっちというものがよくわからず、雰囲気に流されるままサスケくんかっこいいの輪に入っていた。すごいとは思うが、かっこよくて素敵なのはチョウジとシカマルも同じかそれ以上だ。

「チョウジ、シカマル、帰ろー!」

「はぁ?お前女子と帰れよ。俺たちは俺たちで帰るからよ。」

「じゃあね。」

 わたしは長いものに巻かれて生きるのは得意だったが、2人への執着とへこたれないど根性はあった。

「チョウジ、シカマル、帰ろー!」

「昨日言ったこと忘れたのか?お前ほんとアホだな。」

「覚えてるよ!昨日はナルトとキバに譲ったんだから、今日はいいでしょ?」

「「……。」」

「さ、行くよ。みんなばいばーい!」

 そんなわたしの粘り強さもあり、思春期で離れがちな女子と男子の距離をなくすことにわたしは成功したのだった。3人でいれば最強だった。

「もうお前らの顔見飽きたっつーの。」

 下忍になる時、当然のようにわたしたちは同じ班だった。みんなわかっていた。山中家、奈良家、秋道家に生まれた者の宿命だ。わたしはそれをラッキーだと思っていた。シカマルは文句を言っていたけど、嬉しそうだった。

「めんどくせーけど、なっちまったんならやるしかねーよな。」
 
 中忍試験を終えて、シカマルだけが中忍となった時は嬉しく誇らしく思った。誰よりも早く、一番にシカマルを評価していたのはわたしだという自負があった。だから、世間の評価がやっと追いついてきたと思った。と、同時に少しさびしくて苦しくなった。
 その後、生死を彷徨ったチョウジが無事で良かったとわんわん泣いた後、泣きながらシカマルを慰めた。シカマルを久しぶりに抱きしめた。わたしがおかしくなったのはこのあたりからだ。

「シカマルってほんと優秀だよね。」

「実はエリートで結構かっこいいかも!」
 
 まわりの女の子たちがシカマルを素敵と言うようになった。こんなに嬉しいことはないと、自分は思うと思った。全然違った。やめてと言いたかった。わたしが誰よりも先にシカマルがかっこよくて素敵だと思っていたし、わたし以外は気付かなければ良かったのに。そう思った。

「シカマルたちもよくやってるよ。」

「俺たち猪鹿蝶も世代交代かもな。」

「ハハッ!あとはあいつらも結婚して子ども作って、また引き継いでくれたらこんなに喜ばしいことはないな。」

 そこでわたしは気付いた。
 わたしはシカマルと結婚できない。シカマルと別の人と結婚して子どもを産まないと、次の世代の猪鹿蝶ができない。

 ――わたしはシカマルと結婚したかったんだ。

 初めて自分の生まれを憎んだ。
 今まで当たり前のようにずっと一緒にいることができたツケを払わなければならないのか。別の女と結婚して子どもを作るシカマルを見て、自分はシカマル以外の男と結婚して山中家を継いで子どもを作る。

 ――わたしはシカマルのことを……。

 


 
「シカマルー!」

「お前酔って引っ付くのやめろって。いくつだと思ってんだ。」

「だめなの?」

「いろいろ駄目だろ……、お前なぁ……。」

 シカマルが中忍試験の試験官になって、砂隠れのテマリさんとしょっちゅう木ノ葉を練り歩くようになった時、わたしはどんな顔をしていただろう。

「テマリさんだ!シカマルも。こんにちは!」

「おお、幼なじみのご登場じゃないか。」

「よぉ。」

「雰囲気が変わったな。きれいになって見違えたぞ。」

「ほんとですか?テマリさんったら女たらしなんだからー!」

「はいはい、俺たちまだ仕事中だっての。じゃあな。」

 ――気づかれてはいけない。誰にも。その時まで。





 アスマ先生が死んでしまった時、悲しくて涙が止まらなかった。でも、煙草に火をつけてうつろな目をしたシカマルを見た時、わたしはついにこの時が来たと思った。 わたしの瞳はロウソクの火が揺れるようにゆらりときらめき、シカマルに見てほしくてつけているチェリーレッドの口紅を引いた口角が思わず上がった。

「シカマル、アスマ先生が……先生……。」

「……。」

 わたしはシカマルの首の後ろに腕をまわして耳元で囁く。薄着のまま、シカマルの胸板にそこそこ成長した胸を押し当てる。

「シカマルは……どこにも行かないよね……?」

 シカマルの細くて骨っぽいゴツゴツした指に、自分のを絡める。拒否されない。もう少し。

「シカマル……、」

 シカマルの耳に直接息を吹き込むように、唇が耳にかすめるように。もう一度くっつき直して胸を押し当てた。悲しみと苦しみから開放されたいシカマルと、涙で濡れたわたしの瞳がかち合う。シカマルはわたしの瞳の奥の妖しいきらめきには気付かない。

 ――シカマル、わたしはしきたりも家もチョウジも里も捨てられるよ。

 早くここまで堕ちてきて。

 

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