白眼のない日向



 それから約半年後。木ノ葉隠れの里で再び中忍試験が執り行われた。今回も砂隠れの里と合同である。木ノ葉崩しによる被害はまだ風化されない混乱の中でも、大国の意地としてやはり大々的に開催する他なく、新米の中忍であるシカマルを始め、ナマエも中忍試験の運営としてあくせく働いた。

「え、嘘!本戦終わっちゃったの!?」

 ナマエが本戦の観客席へ到着した時、トーナメントの最後の試合がちょうど終わったところだった。この時期だけは忍ベストを着用しているナマエが観客席の最後尾ではぁはぁと息を整えていると、壁に寄りかかったカカシと目が合った。

「残念。今ネジくんの試合が終わったところだよ。」

「そんなぁ……なんでこんなにトラブルが多いのよ……。」

 運営側といっても、ナマエが最終戦で任された仕事は溢れる観客の整備や、試合には興味がなく政治の話をしに来ただけの要人たちの警護、ヒートアップした観客たちの喧嘩を止めることなどだった。それぞれの持ち場からではギリギリ試合を観戦することができず、トーナメントの勝ち進み具合までも知ることが出来なかった。

「でもトーナメントで優勝したし、中忍は確定じゃない?」

 トーナメントで優勝した者が必ず中忍になれるとは限らないが、誰がどう見てもネジの実力は頭ひとつ抜けていた。そもそも前回の試験の際に、戦闘力だけでいえばそこら辺の中忍を凌駕する強さだった。ただ、前回の彼には冷静さを欠く呪縛があっただけだ。

「優勝……!すごい、やっぱりネジは天才だわ。」

「今年はかなり合格者が多そうだよ、サクラもかなりいいところまでいったしね。」

「サクラちゃん!カカシ先輩の教え子も中忍になれるといいですね。」

「五代目から直々に教わってるし、もともとサクラはチャクラコントロールがうまい。何より目的のために努力してるから。」

「先輩嬉しそうですねぇ。いつになく饒舌ですよ。」

 ニヤニヤしながらカカシの二の腕あたりをちょんちょんと突くと、カカシはうんざりした目つきでナマエの指を片手で握って阻止した。

「ほんとお前といると疲れる。」

「わたしはカカシ先輩といると楽しいですよ。」

 指を掴まれたままニコニコとするナマエに、カカシはハァとわざとらしくため息を吐いた。しかし、ナマエにはカカシが心底自分をうっとおしがってるわけではないことをわかっている。

「ナマエさん、勝手に持ち場を離れないでくれ。」

 2人の無言の攻防に終止符を打ったのは、ナマエを探しに来たシカマルだった。

「……って仕事中に何してるんだよ。」

 カカシがナマエの指を掴んで見つめ合ってるので、シカマルは呆れたようにハァと大きなため息を吐いた。イチャイチャしているようにしか見えない。

「ごめん。本戦終わりそうって聞いてちょっと抜けてきちゃった。」

「お前な……。」

 年上の女性をお前呼ばわりすると父親にも母親にも怒られそうだが、シカマルはつい口が滑った。シカマルもシカマルで、初めての中忍試験の運営に奔走させられているのだ。多少イラつくのは無理もない。

「わかってる。下に集合するんだよね?行こ。」

 カカシの手からするりと自分の指を抜くと、観客席の間の階段を駆け下りた。じゃあとカカシに会釈だけしてシカマルもその後に続いた。
 下へ降りる途中で、観客がわっと立ち上がって拍手したので何事かと思ったが、一部怪我などで出てこられない者を除く出場者全員が再び登場したかららしかった。その中にはもちろんネジの姿もあり、怪我などの心配もなさそうなその様子にほっとした。

 シカマルとナマエが裏道を使って舞台袖へ着くと、ちょうど舞台から捌けた出場者たちと鉢合わせになった。

「シカマル!」

「シカマル、俺の試合見てたか?俺中忍確定だぜ。」

「全部は見てねーけど盛り上がってたな。」

 今回の中忍試験はシカマルの同期たちがほとんど出場しており、シカマルはチョウジやキバ、いのなどに声をかけられて足止めされていた。
 これをいいことに、ナマエは最後尾にいるネジが通りかかるのをクールな顔をして待った。内心はもじもじソワソワしてるのだが、ネジの前でポーカーフェイスを保つのはうまくなっていっている。

「ネジ、」

 ナマエは今気づきましたという顔を作ってネジに声をかけた。

「おめでとう。トーナメント1位だってね。」

「ああ。ありがとう。」

 ネジからの感謝の言葉にナマエは嬉しく舞い上がり、だらしなく口角が上がりそうになるのをなんとか抑えた。以前のネジならおそらく「ああ」で終わるか「当然だ」とか言いそうである。

「このままだとあっという間に上忍になっちゃうかもね。」

「どうだろうな。そうなればいいが。」

 ネジが薄く笑う。

 ――好き!

 ナルトのおかげなのは気に食わないが、ネジは前回の中忍試験以降よく笑うようになった。以前も人を挑発するような意地悪な笑いはしていたが、優しく微笑むことなんてなかった。
 胸が高鳴るのを抑えるために、ぎゅっとベストの胸の部分を握りしめた。そして自分がベストを着ていることを思い出し、この格好が似合わないのでできれば素敵な服を着ている時に遭遇したかったと思った。

「ナマエ姉さん、お久しぶりです。」

「ヒナタ様、ご無沙汰してます。」

 ヒナタの存在には気付いていたが、ナマエは自分から気安く声をかけるほど仲が良いわけでもない上に身分も低かった。白眼を開眼していない落ちこぼれなのでネジよりもさらに立場は弱い。

「ヒナタ様のご活躍、直接拝見できず残念です。」

「ナマエ姉さん、敬語はやめてください……。」

「ヒナタ、この人誰だ?」

 ヒナタが謙遜するようにワタワタとしていると、シカマルたちと話していたキバがひょっこりとこちらに首を突っ込んできた。

「日向ナマエ。ヒナタ様のはとこです。」

「日向?全然似てねーな。白眼でもねーし。」

 キバのあけすけな発言にナマエはピクリと眉が動いたが、ネジやヒナタの手前感情的になることはなかった。日向なのに白眼ではないということの重みを知る2人はキバに何かを言おうとしてぐっと押し黙った。白眼を持っている側が言うことではないと思ったのだろう。

「まぁね。犬塚家で猫派みたいなものよ。」

「そんなやついねーって!」

 軽口で躱すと、キバが豪快に笑った。
 ナマエのポーカーフェイスはネジとヒナタにも効いたようで、ナマエ本人が気にしていないならと緊張感が緩んだのが伝わった。

 分家にあたるナマエは白眼が開眼すれば額に呪印が施されるはずだった。幼い頃は母のそれを見て泣いて嫌がったことがある。しかし、今では呪印のないつるりときれいな額が泣きたいほど悲しいのだ。

「ナマエさん、」

 時間を食って申し訳なさそうなシカマルが目配せしてきた。ナマエからしたらネジと会話できたのでシカマルに感謝しているくらいだ。

「では、失礼します。」

 ヒナタへ挨拶し、ナマエはシカマルと歩き出した。観客席にいたナマエをさんざん急かしたくせに同期たちとのんびり話してしまい、「すんません」と素直に謝るシカマルに、ナマエは首を横に振った。
 角を曲がる際にチラっとネジを見た。ヒナタと話す横顔は穏やかだ。いとこ同士の2人が最近一緒に修行をしているというのは実家で小耳に挟んだが、実際2人が話をしているのをナマエは初めて見た。

「いとこ同士って結婚できるんだっけ。」

 視線はネジに残したまま、ナマエはポツリとつぶやいた。

「何だ唐突に。」

「できるよね、知ってる。」

「じゃあ聞くなよ。」

 シカマルの目はなんだコイツと言っていたが特に気にしなかった。

 ――やっぱりネジは捻くれたままで良かったのに。




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