死ぬなら君以外



 木ノ葉病院の長く冷たい廊下で、手当を終えたシカマルはぐったりとしながら、それでも座る気にはならず壁に身を預けて立ちすくんでいる。親友や仲間が自分のせいで生死を彷徨っている、とシカマルは思っていた。
 先ほどストレッチャーで運ばれたチョウジを見て、後悔と失意に苛まれた。自分ではない隊長が率いていたらこうはならなかったのではないか、あの時こうしていればと「たられば」ばかりが頭に浮かぶ。

 廊下の奥が騒がしくなり、ガラガラと小さな車輪がせわしなく回る音がする。ぱっと顔を上げて見ると、ストレッチャーに乗せられたネジがいる。シズネと他数名の医療忍者が応急処置を施しながら走っていた。シカマルの目の前を通って緊急治療室に入っていく集団を追いかけるように、1人の女性がパタパタと走る。

 セミロングの髪も瞳もグレーのその女性は、シカマルやネジより少し歳上に見える。白のショート丈の着物の形の忍服を着ており、すらりと細く白い脚がむき出しだった。横たわるネジしか見えていないようで、シカマルからは必死な横顔しか見えなかった。

「ネジ!」

 医療的な声掛けとはまったく違う悲痛な高い声がキンと廊下に響いた。

「ネジ、ねぇ……!」

「ナマエ、」

 ナルトだけを抱えて里へ戻ってきたカカシがナマエと呼ばれたその女性の肩を掴んだ。立ち止まったカカシとナマエの目の前で緊急治療室のドアがパタンと閉まった。

「……どうしよう、」

「……、」

「ここに、穴開いてた……、」

 カカシを見上げてナマエは自身の胸の上あたりを指した。カカシは何も言わなかった。

「ネジが死んじゃったら……、」

 ナマエは自分の言葉にショックを受け、ぽろぽろと涙を流した。忍が涙を流すのはご法度とされているが完璧に守れている忍は少ないだろう。

「なんで……、なんでネジなの……?」

 顔を手で覆って嗚咽をもらすナマエの頭にぽんと手を置くカカシ。

「急所は外れてた。ネジくんを信じてあげよう。」

 絶対に大丈夫だとかそういった根拠のない励ましはしなかった。
 カカシはカカシで教え子であるサスケが里抜けしてしまい、ナルトがボロボロになって帰ってきたので心を痛めていたが、ナマエのように表情に出ることはない。

「こんな……危険な任務、まだ下忍の子たちには早すぎるよ、」

「……。」

「わたしがもっと早く……任務を終わらせてれば……。」

 またも泣き出すナマエを見て、シカマルはいたたまれない気持ちになった。自分の力不足のせいでネジは重症で、そのネジを大切に思う女性が涙を流している。ここでごめんなさいと言えたほうが楽だっただろう。しかし自分がスッキリするためだけに軽々しく言葉を発するのは気が引けて、シカマルは黙ってナマエの嗚咽を聞いていることしかできなかった。シカマルの隣にいるテマリも、黙ってナマエを見ていた。

「ナマエ!」

 廊下の奥からまたも忍が現れた。忍ベストを着た男2人組は、ナマエを見つけるや否や腕を掴んで引っ張って行く。

「ほら、次の任務行くぞ!」

「でも、でも……!」

「気持ちはわかるけどこればっかりはしょうがねーだろ!」

 ずるずると長い廊下を引きずられるようにナマエは去っていった。カカシも任務がまだ残っているのか、同じように立ち去る。





 その後、ネジとチョウジは一命をとりとめ、任務失敗だが死者を出すことなくシカマルの初隊長となる任務は終了した。

「次こそは……完璧にこなしてみせます……!」

 シカマルはどんなに時が経ってもこの任務で感じた思いは忘れることはないだろうと思った。




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