05



 任務受付所にはいつも多くの忍が集まっていた。
 スリーマンセルで任務に出ていて先ほど帰郷したナマエは、後輩が書き上げた報告書に目を通していたところだった。その時、シカマルとチョウジといのがやって来たのが見えた。チョウジといのの耳に揃いのピアスがきらりと光る。

「悪いけど、ちょっと行ってきていい?」

 報告書の確認を同期に押し付けると、ナマエは受付で話を終えたシカマルを捕まえた。

「シカマルー。」

 シカマルは「おう」と言ったが、一瞬気まずいような微妙な表情をした。そういう顔をされるのは想定内だったので、気にせずチョウジといのに「少しだけシカマル借りてもいい?」とにこやかに聞いた。了承を得てから、シカマルとナマエは2人から離れて壁際に移動した。

「ピアスは捨ててもいいの?」

 2人は並んで壁に寄りかかった。ピアスという言葉にシカマルががばっと勢いよくナマエの方を見た。

「……ダメだ。」

「ふーん、わざと?」

「わざとじゃねえ。」

「だよね。わざとだったらベッドフレームとマットレスの間に落とさないよね。」

 無意識にシカマルの痕跡を消すかのように部屋の隅から隅まで片付けていたらコロンと出てきたのだ。そこからさらに念入りに部屋を探したらキャッチも出てきた。

「んなとこに落としてたか。」

 シカマルはハイ、と手を差し出した。ナマエはその手のひらをじーっと見つめて、ペシンと叩く。

「いつも持ち歩いてるわけないじゃない。今度取りに来てよ。」

「……俺誘われてる?」

「自意識過剰。」

 ナマエはシカマルを小突いた後クスクス笑った。実際前回誘ったのはナマエのほうだったのでそう取られても無理はない。さらに言えばシカマルも本気で言ったわけではない。

「戦闘中でも外れたことなかったんだけどな。大事な物だから結構気を付けてたし。」

 シカマルのピアスはアスマからもらった10班だったという仲間の証でもあるものだから、ここ最近はずっと探していて気が気じゃなかった。ナマエの家にある可能性は真っ先に頭に浮かんだが、そうでないといいとシカマル思っていた。
 今日ピアスをしてないことは、よく気がつくいのはもちろんのことチョウジにもバレていたと思う。

「あーそれはごめん。わたしが触っちゃったからかも。シカマルがキスし――んむ、」

 最後まで言うことなく、シカマルの手のひらの中に言葉は消えた。普段シカマルは女性に対して自らベタベタと触ることはないのだが、ナマエに対してはもう身体中すべてを触ってしまったためか遠慮も容赦もなかった。

「こんなとこで変なこと言うな。」

 シカマルは若干首を赤くしながらナマエを見下ろした。ナマエはその手を退けて、クスッと笑う。

「別にエッチなこと言おうとしてたわけじゃないけどな。」

 シカマルがキスしてきた時に耳たぶとピアスを触ってしまった自分が悪い、と言いたかっただけだった。

「お前な、危機感とかねーのか。こんな誰に聞かれるかわかんねー所で。」

「あー……、」

 背中を壁に預けたままぐるっと見渡すと、中忍や特別上忍、上忍までさまざまな人たちがいる。
 あ、と小さくナマエが声を出した。ナマエの視線の先には特別目立つ銀髪の横顔があった。カカシである。

「これ浮気になるのかな。」

「俺に聞くな。」

 ナマエが1点を見つめているので、シカマルもその視線の先を辿ってカカシがいることに気が付いた。今隣にいるこの人と、あのカカシ先生がねえと同じ空間にいる2人を見比べてみる。カカシとナマエが恋人らしく並んで歩いているところは想像できなかった。

「もう別れたと思ってたんだけど違ったみたいだから、付き合ってることも知らないふりしてね。」

「それはいいけど。」

 シカマルはものすごく後悔し始めていた。彼氏がいると知っていたのに流されてしまったのは自分に過失がある。でも、あの時点では迫る色っぽいナマエと「もうほぼ別れている」という後押しがあったからで。後出しで彼氏がカカシであることと、やっぱり別れはしないというとんでもない事実が出てきたのだ。凶悪犯罪の片棒を担いでしまった気分だった。言ってはいけないことがあまりにも多い。

「シカマルは1つも悪くないから。巻き込んでごめんね。」

 シカマルの胸中を察したのか、ナマエはすまなそうに笑った。申し訳なさそうにしてはいるものの、カカシと別れてすべてを清算する気はなさそうだった。シカマルはやや呆れている。

「よくその状態で付き合ってるよな。」

「ね、わたしも思うよ。でもカカシ先輩って何もかもがわたしのツボなんだ。」

 ナマエは遠目からぽーっとカカシを眺める。やや猫背気味でもの後ろ姿も素敵だし、サラサラの銀髪も、眠そうな目元も、普段隠れているが口元のほくろもセクシーだ。カカシは紅と話しているところだったが、美女と並ぶとますます画になると思った。

「見た目だけじゃなくって、中身もすっごく素敵だしね。」

「ハイハイ。」

「カカシ先輩のこと秘密にしてるから、こうやって恋話できたの初めてだ。」

 ナマエが心の底から嬉しそうに言うので、シカマルはなんとも言えない気持ちになった。「そりゃ良かったな」と言ってやりたい気もするが、哀れだとも思うし、シカマルに言うのはややデリカシーに欠けるような気もする。
 シカマルが口を開きかけた瞬間、なぜかカカシと目が合った。カカシの視線はすぐにどこかへいってしまったが、その視線にドキリと心臓が跳ねた。なんの感情も乗っていないように見えたが、後ろめたいからかその目配せに意味があるように思えて仕方がない。

「……俺後ろから刺されたりしねーよな。」

「えー?何それ。」

 ナマエはカカシの視線がこちらに向いていたことなど気付きもせずケラケラと笑っている。シカマルはしばらく背後に気を付けながら生活するほかなかったが、とりあえずピアスを返してもらったらナマエから距離を置こうと思った。

 今ならまだ引き返せるとこの時は思っていた。

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