06


【O】

 カカシに抱えられながら泣いていたナマエは、いつの間にか泣き止みぼーっとしていた。
 一度山賊に足止めを食らった際に、ナマエは大人しくカカシから離れて自分の足で走った。その後、ナマエはカカシに何があったのかを淡々と報告した。カカシも報告書に記載するために淡々とその報告を受けた。

 ナマエにとっては、初の班員から離れての任務だった。色任務ではなかったにしろそれを覚悟の上で挑み、まんまと男に襲われて帰ってきたナマエを見て、カカシは忍といえどさすがに気の毒に思った。これに耐えきれず辞めた者も少なからずいるし、カカシの時代と今では多少違うため、ナマエのことが心配だった。カカシはナマエにできるだけ目をかけてやるようにした。

 ナマエは任務の初失敗以降、ある1点を除いて大きく変わったことはなかった。ナルト、サクラ、サスケは、ナマエにそんなことが起きていたとは知らないだろう。そのくらいナマエは普通だった。

「カカシ先生、いつでもいいので先生の空いている時間で修行をつけてください。」

 ナマエは任務終わりに必ずカカシを見上げて言った。その表情は特に思い詰めているようでもなく、純粋なお願いだった。これがナマエの唯一変わった点だった。
 
 その修行というのが幻術のスキルを伸ばすことに特化したものだった。カカシは気がかりなナマエのお願いを2つ返事でOKした後に知った。写輪眼を持つカカシの幻術への耐性をつけ、幻術返しできるようになることがナマエの修行の目的だった。

 任務に失敗しないためなのか、もう二度と男に襲われないためか。カカシはナマエの真意は掴めなかったが、たしかに今後も色任務に就くのであれば幻術スキルを伸ばすことは正解だった。任務の成功率を上げるためにも、己の身を守るためにも。

「サスケ、修行付き合って。」

「……わかった。」

 それが最近ではサスケにまで及んでいる。カカシが第7班との任務以外にも出ており、ナマエの修行に毎回付き合っていられないためだった。サスケが波の国で写輪眼を開眼して以来、多少の幻術は使えるようになっていたことをナマエは知っていた。

 カカシの代用品としてサスケを勧誘していた当初はサスケに嫌がられていたし断られていた。サスケはナマエを格下だと思っていたし、実際にそうだったので、ナマエの修行に付き合う理由はないと思ったからだった。
 それでもナマエはどうにかしてサスケを言いくるめた。サスケの写輪眼の修行にもなるとお互い納得して修行に励んでいる。

 カカシの心配は、サスケの幻術のコントロールスキルが未熟なために、サスケがナマエへ強い幻術をかけてしまうことだった。
 カカシほどの忍になれば、幻術をうまく使ってほどほどに相手を痛めつけることもできる。現にナマエはしんどそうだったが、それ以上でもそれ以下でもなかった。サスケの未熟な写輪眼で、たまたまとんでもない威力の幻術を発動させてしまわないか。カカシがそれとなく忠告しても、サスケとナマエは任務後にいそいそと修行へ向かう。止めることは難しかった。

「あー、サクラちゃん!俺ってばかなり暇だし、一楽でもどう?」

「……そうね……。」

 カカシのもう1つの気がかりは、サクラだった。以前のナマエはもう少し空気を読んでサスケと程よい距離感を持っていた。サクラがサスケを好きだからだ。ナマエがサスケとの距離感を遠慮しなくなったのは果たしていつからなのかカカシにもわからない。

 波の国でのAランク任務以来、ナルトとサスケはお互いをライバル視して微妙な関係だった。それに加えて今は、サクラとナマエもサスケを中心に微妙な距離ができている。そのおかげか、ナルトとサクラ、サスケとナマエは互いにうまくやっている。

「まいったねどうも……。」

 思春期の4人の担当上忍とは様々なことに気を揉まなければいけないのかと、カカシは頭を抱えそうになった。





 ナマエとサスケは演習場で向かい合っている。サスケの瞳は写輪眼で赤く染まっており、ナマエはその瞳を見ながらぼーっとしている。一見何もしていないような2人だが、サスケはナマエを必死に幻術の世界へ押し込めようとしているし、ナマエはナマエで抗おうと額に汗をにじませている。

 幻術世界の中でナマエはカカシやナルトやサクラに暴言を吐かれたり殺されかけている。ナマエは精神的に追い詰められながらも、幻術を解く糸口を探していた。

 ――毎回痛みで幻術を解くわけにいかないし……。

 これは修行なので、幻術を解くために指を折ったり血を出したりしてはダメだ。チャクラの動きを操って、術者に反射させる練習をしないと。
 ナマエはチャクラを練り上げるが、なかなかうまくいかなかった。

 不意に幻術の中で新たな人物が現れた。

「……うっわぁ!」

 ナマエは咄嗟に、ホルスターから手探りでクナイを取り出そうとして、慌てたせいか起爆札までこぼれ落ちた。

 サスケの目に映るナマエの瞳はまだモヤがかっていて幻術の中にいることがわかった。ナマエの手元が狂い、起爆札の爆発まであと少し。

「チッ、」

 サスケは幻術を解いて手元だけは忙しないもののピクリとも動かないナマエの身体を抱き締めて跳んだ。

 爆発のせいで思ったより2人の身体は跳んで、3本立った丸太のそばまでゴロゴロと転がった。
 砂埃が舞って、サスケは自分の腕の中にいるナマエを咎めようと上体を起こしかけた。

「カカシ先生、カカシ先生……!」

 ナマエはサスケの腕の中でカカシの名を呼んでいた。とっくに幻術は解けていて痛みも感じているはずなのに、ナマエはサスケの腕を掴んだまま震えていた。

「おい……、」

「なんで、助けて……、助けてくれないの……?」

 サスケの幻術の方が、ナマエの幻術返しのスキルより上達が早かった。サスケは、サスケ本人が知らないことまでも、相手のトラウマを引っ張り出す幻術が出来かけていたらしかった。

「おい、誰だ今のは。」

 サスケはナマエが見た幻の中に突如現れた小太りの男を初めて見た。どうにも忍っぽくはなく、木ノ葉隠れの里では見たことがなかった。
 ナマエはビクッとして、サスケの身体にさらに密着した。

「……。」

 ナマエはそこでようやく幻術から現実に帰ってきていることに気が付いた。サスケが再度「おい」と言ったのは聞こえたが無視した。声色は怒っているわけではなく照れているように聞こえたから。

 ――サスケとアイツは違う。サスケのことは好き。カカシ先生のことも恨んでるわけじゃない……。

 ナマエは自分に言い聞かせるように頭で唱えた。サスケとは林の中で「あんなこと」があったのに、今さら抱きついたくらいで照れるサスケをなんだか可愛いと思った。動悸が治まるまで、サスケの腕を借りようとナマエは思った。





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