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【O】

 あれから1か月が経過した。

 相変わらず違和感も渇きも感じない、いたって普通の日々が続いている。
 毎日欠かすことなく書いていた日記も、そろそろ辞めようかと考えている。今思い返せば、世界を行き来する違和感をどうにかして突き止めようとした防衛本能のようなものが働いて日記をつけ始めたのかもしれない、とナマエは思っている。

 今日は久しぶりに、同期を中心としたメンバーで焼肉に行くことになった。幹事はサクラといの。皆任務で忙しい中、なんとか全員調整がついて参加できることとなった。

 しかし、集合時間を過ぎていても、ナマエはまだ待機室で任務報告書を書いていた。

「カカシ先生人遣い荒すぎ。もう焼肉始まっちゃってますよー。」

「仕方ないでしょうよ、俺も突然五代目に頼まれた仕事があるんだから。」

 隣のカカシを恨めしげに見ると、さっぱり理解できそうにない暗号文書に目を通していて、ナマエはむーとむくれながら黙って手を動かした。先ほどまでカカシを隊長としたフォーマンセルの任務に出ていて、その報告書をカカシの代わりにナマエが書いている。

「お腹空いた……。」

「携帯食料ならあるけど。」

 カカシがベストのポケットから袋に入った四角い任務用の携帯食料を取り出した。クッキーのようなそれは、口中の水分をすべて持っていくようなパサパサ具合と塩味でも砂糖味でもない味わいで、とてもじゃないが食べたいものではなかった。

「お肉が待ってるので我慢します……。」

「俺が言うのもなんだけど、分身使って遅れること知らせたら?まだかかりそうじゃないの、それ。」

「遅刻常習犯だからサクラなら察してくれると思います。」

「……そんなところまで俺に似なくていいのよ。」

 カカシが眉を下げて言うので、ナマエはふふっと笑った。褒められてはいないが、師匠であるカカシに似てきたのはくすぐったくて少し嬉しかった。

「先生、終わったので確認してもらっていいですか?」

「あーいいよ。ありがと。」

 それから15分ほどで報告書は書き終わったので、ナマエは早足で焼肉Qへ向かった。

「おつかれー。」

 ナマエが皆が集まる卓に到着すると、一斉に視線が集まった。

「遅いじゃない!」

「ナマエ、君またチンタラ仕事してたの?」

「もうナマエが食う肉ねーぞ!」

 新生第7班のメンバーであるサクラ、サイ、ナルトからの容赦ない言及に、ナマエは立ったままやれやれと肩をすくめた。

「困ってるおばあさんとおじいさんと子どもがね……、」

「「嘘吐け!」」

 サクラとナルトが口を揃えて言うのでクスクス笑った。本当はカカシ先生に仕事頼まれたの、と言うと、一番近くの空いている場所に座ろうとした。

「あー!ナマエ!ナマエはこっち!」

 いのが奥の方でぶんぶんと手を振った。シカマルやチョウジもそばにいる楽しそうな座席だったが、ナマエはもうリーの隣に座りかけていたので、そちらに移動するのが面倒になってしまった。

「後でそっちも行くからさ。」

 ナマエは結局、リーの隣に座ることにした。リーとガイの話をしたいというのもある。いのはちょっとぉ、と怒っていたがナマエは無視した。いのとは付き合いが長いのでナマエはいののあしらい方はわかっている。

「ナマエちゃん、お腹空いてるよね?」

「あーヒナタ!お肉ありがとう!もうペコペコだよ。」

 向かいのヒナタが肉を焼いてくれたので、ありがたくナマエは焼肉を楽しんだ。





 普段の激務の鬱憤を晴らすべく、ノンアルコールとは思えないほど会は盛り上がった。ナマエは結局場所を動くことなく、リーやヒナタやテンテンと話しながら肉を食べた。

「ここいいか。」

 息抜きに来ているのに任務の時より疲れた様子のシカマルがナマエの隣に座った。いつの間にかリーはナルトの方へ行っていて、ナマエの隣は空いていた。

「なんか疲れてない?大丈夫?」

「今日は特にいのがうるせー。」

「なぜか張り切ってるよね、サクラも。」

「お前のためだって言ってたぞ。」

「え?」

 ナマエが目を丸くしていると、向かいに座っているテンテンが「メニュー取って!」と声をかけてきた。
 シカマルとナマエが座る座布団の間にあるメニューを取ろうと手を伸ばすと、シカマルと指先がぶつかった。

「あ、ごめん。」

 シカマルが手を引っ込めたのでナマエがテンテンにメニューを渡すと、テンテンはありがと!と言ってヒナタとメニューを見始めた。
 ナマエはもうお腹がいっぱいで、肉も飲み物も入らないなと自分の尻の近くに手をついた。満腹なのと掘りごたつ式の卓だということもあり、ナマエはもうここから動きたくないなと思った。

「あ。そうそう、わたしのためって?」

「お前がたぶん失恋して落ち込んでるからパーっとしようってさ。」

「いののおしゃべり……。」

「は?まじなの?」

「違う違う。たぶんわたしがらしくないこと言ったからそう汲み取ったんだと思う。」

 サクラといのはおそらくナマエが「恋がしたい」を「新たな恋がしたい」と読み取り、「カカシ先生はない」と言ったのを「カカシ先生と何かあった」と勘違いしたのだろう。
 実際に何かあったのは事実だが、失恋というわけではなかった。始まってもいないのに終わるものなどない。

「ふーん……。」

 シカマルは何か言いたげだったが、特に何も言ってはこなかった。シカマルもナマエと同じように座布団のそばに手をついて同じような格好になった。
 その時にちょんと指先が当たったが、シカマルは今度は手を引っ込めなかった。

 シカマルとナマエの指先は2人の座る座布団の間で少しだが触れ合っている。シカマルはナマエの指を自分のに一瞬絡めて、弄ぶように握って離した。ナマエは心臓の鼓動が速まるのを感じた。決して触れ合いにときめいているからではなかった。

「あ、れ……?あのさ……中忍試験監督のための修行をしたの、記憶にある?」

「は?何の話?修行?」

 シカマルは初めて聞いたと言わんばかりに顔をしかめた。

「わからないならいいの……シカマルとわたしってさ、いつぶりだっけ?」

「は?……一昨日くらいに待機室で会ったろ。」

「その前は?」

「その前……?ツーマンセルの任務の時じゃねえの。」

 ナマエは自分の口元に手を当てた。とんでもないことをしてしまったかもしれないと思ったからだ。

「お前なんか変じゃねえ?」

 ずいと顔を近づけられる。手は少し触れたままだった。





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