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【O】

 シカマルとテマリが木ノ葉隠れの里の中心街を歩いていると、見知った顔を見つけた。

「あそこにいるの、お前の同期じゃないか?」

「え?あーナマエか。」

 ナマエは忍具屋の前で忍ベストを着た男と話していた。店の外壁にもたれ掛かっており、男が閉じ込めるように手をついていた。
 ナマエの表情は男に隠れて見えなかったが、無駄に近い距離からして言い寄られているのではないかとシカマルは思った。

「行ってやれよ、救世主。」

 テマリがからかうように笑った。シカマルは微妙な顔をしたがハァとため息を吐いて2人に近づいた。

「ナマエ、」

 シカマルが呼びかけると、ナマエは男の陰からひょこっと顔を出してぱっと笑った。

「シカマル!久しぶりだね。」

 シカマルは中忍試験の準備が始まり、通常任務に就く回数が減っていたので、ナマエとは数か月ぶりだった。見るたびに大人っぽくなるなとシカマルはいつも感心する。

「買い物か?」

「そうなの。今日非番だから。」

 男は壁から手を離してナマエと少し距離を取った。シカマルとナマエを見ては居心地が悪そうにしている。

「あ、俺行くよ。また今度話聞いてくれる?」

「はい、また。」

 中忍の男が去っていくのをシカマルは横目に見て、見えなくなってからナマエに向き直った。

「邪魔したか?」

「ううん。たまたま会って話してただけ。」

 ナマエはなんてことないように言った。端から見たら距離感が異常だったが、まったく気にしていないようなので、シカマルは肩透かしを食らった気分だった。「助けてくれてありがとう」と言われたかったわけでは決してないのだが、困っていない人を助けてしまったようだ。

「わたしこそお邪魔しちゃったかな。」

 ナマエが口元に手を添えてふふっと笑った目線の先にはテマリがいた。

「んなんじゃねーって。」

「ふふ、そう?中忍試験の準備忙しそうだね。」

「ったく、めんどくせーったらねーよ。」

「テマリさん待ってくれてるし、もう行ったら?」

「おう、じゃあまたな。」

 ナマエはテマリにも手を振って2人を見送った。シカマルがテマリのもとへ戻ると、2人は歩き出した。

「なんだ、もういいのか?」

「ああ。普通に話してただけだっつーし。」

「普通に話してただけの距離ではなかったがな。」

「ナマエはちょっと抜けてるからな。あんま気にしねーのかも。」

「……抜けてる?」

 テマリが怪訝な顔をした。シカマルはそれに対して「え」と意外そうな声を出した。

「なんかぽやっとしてるだろ、あいつ。」

「ぽやっとねぇ……、」

 テマリは少し考えた。ナマエとは数回しか会ったことがないが、テマリは「ぽやっとしてる」とは思わなかった。ナマエの底知れぬ感じは女にしかわからないのかもしれないと少し思ったが、まぁいいかとテマリはふっと笑う。

「お前もまだまだだな。」

「……はぁ?」





 ナマエは買い物を終えると忍具屋を出た。忍具屋の隣に位置する雑貨屋へ入ると、小さな鍵付きの日記帳を購入した。

 3年ほど前から欠かすことなく書いている日記帳は、もう何冊も新調している。小さな鍵など何の意味もなさないことはわかっているのだが、かなりプライベートなことや自分の気持ち、その日の体調などもすべて記入しているので、なんとなく鍵をかけてプライベートを守るていを取りたかった。

「ナマエー!」

 店を出て歩いていると、手を振るサクラに呼ばれた。

「サクラ!綱手様との修行はもう終わったの?」

「そうよ、もーお腹ぺこぺこ。行きましょ。」

 カカシに宣言した通り、ナマエはサクラとうまくやっていた。2人の仲を裂いた原因であるサスケが里を抜けてから3年近く経っているのもある。今日はお互い任務がないため、昼食を一緒にとろうと約束していた。

「ナマエ、聞いたわよ。この間の外交先でモテモテだったって話!」

「何それ。誰が言ってたの?モテてないよ。」

「向こうの街のお祭りでたくさん男の人に誘われてたってテンテンさんが。」

「テンテンさんも誘われてたし、他里の人がめずらしかっただけだよ。」

 ナマエは先日の任務を思い出した。ガイ班に同行した外交の任務は滞りなく終わり、その街の祭りに参加させてもらったのだ。

 ナマエとサクラはおばんざい屋に入って各々注文した。

「ナマエ、いい加減カカシ先生と付き合ってるって白状しなさいよ。」

「サクラまだそんなこと言ってるの?カカシ先生とは何でもないよ。」

 ナマエは一口みそ汁を飲むと呆れた声を出した。サスケが里を抜けてもナマエが「普通に悲しむ」程度だったので、サスケとの誤解は解けていたが、その頃からカカシとの関係を疑われていた。
 正確に言うとサスケとも誤解ではないし、カカシと何もないわけでもなかったので、サクラの嗅覚は間違っていなかった。ただ、サクラが思うような関係ではないことは確かだ。

「ナマエとカカシ先生よく一緒にいるじゃない。だから誰かに言い寄られても断ってるんでしょ。」

「カカシ先生とは戦闘タイプが似てるし、修行つけてもらってるだけだよ。サクラも修行つけてもらってるでしょ?」

 ナマエは属性を4つ使える器用なタイプだったので、カカシに教わることは多かった。
 クタクタになった後さらに色の修行をしたりする。本番行為は最初のたった一度しかしたことがなかったが、男を無防備にさせる手練手管はカカシから教わっていた。サクラも同じようにカカシと色の修行はしているんだろうとナマエは思っていた。

「わたしがカカシ先生に?……ていうかナマエ、修行はガイ先生に見てもらってるんじゃなかった?」

 サクラはナマエの質問には特に答えず、ガイの話に変えた。ガイ先生、と聞くとナマエの目がキラッと光った。

「ガイ先生すっごいの!組手すると勉強になるんだ。わたしがカカシ先生の弟子だからって容赦ないんだけど、ほんっとに強すぎて手も足も出ない!」

 ナマエがややうっとりとした顔でガイを褒めるので、サクラは引き気味で笑った。

「ナマエって枯れ専?」

「もー、サクラはすぐ色恋沙汰の話にする!」

 2人は小さなデザートまできれいに平らげると、お茶を飲んでから店を出た。

「ナルト、そろそろ帰ってくるかな。」

「どうかしら。……たしかにあのアホ面もそろそろ見たくなってくるわね。」

 ナルトが自来也とともに修行に出てからもうすぐ3年になる。ナマエたちは16歳になっていた。





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